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■「GALVA INVASION」第9ターン 全体イベントシナリオ 前半パート リプレイ

●芸能界は忙しい

 マネージメント稼業は気楽な稼業‥‥とは行かないものである。
「‥‥申し訳ございませんが、はい、その辺りに関しましてはこちらにも‥‥」
 電話での打ち合わせという非礼を詫びつつ、それでもこちらの要件を曲げず。交渉とはまさに言葉の格闘技。波男(ja2108)本来の力をフルに活かす為か、顔部分のモニターには何やらいろいろな数値などが映し出されている。その様子を見て、フレッシュな感性とアイドル張りの笑顔が売りの演歌歌手・深井蓮華(ja1832)が小さく溜息をついた。
「演歌歌手が地味な立位置なのは分かってましたが、こうなるとマネージャーの手腕というのも重要な気がしてきましたね」
 ここしばらく本業に専念していたというのも彼女がメジャー路線に立っていない理由ではあるが。それでもこのやり取りを聞いているだけで、彼がマネージャーとして非常に優秀な人材である事は良く分かる。しかし、その彼をもってしても今回の交渉にはてこずっているようだ。持ち上げたり上から出たり、下手をすると恐喝一歩手前的脅し文句まで飛び出していると言うのに相手が折れたという気配はまるで見えない。モンスターズの出演を条件にかけても、電話相手は恐縮こそすれど答えに変わりはないようだ。
(一般的に見ても、ここまでかたくなにヒズミさんの不在理由を隠す必要が‥‥?)
 過労による一時休業にしてはその回数が多すぎるし、持病が有ると言われているがその病名は明かされていない。あまりにも不自然な点が多いのだ。何人もの記者がその点を突き止めようとしているのだが、いかんせんガードが固くワイドショーも週刊誌も正解まで辿り着いてはいない。この電話一本で全てが分かるなら、今までの取材陣もさほど苦労はしていないことであろう。
 疲労の色をにじませた溜息をつき、波男が回線を切った。交渉は決裂、今後の話し合いに持ち込まれるらしい。
 お疲れ様でした。と蓮華が労をねぎらう。
「話し合い、上手くいかなかったようですね」
「ああ、いやいや。大成功です。充分なデータが取れましたよ‥‥確かにだいぶ疲れましたけどね」
 晴れやかな波男の返答に、一瞬きょとんとする蓮華。
「さて、今度のライヴの件ですね。現状でゲストは入っていませんし、問題はないと思います」
 話の切り替えも早い。いやはや、優秀な男である。

●イリスの影響

「だ‥‥だめよ、アカツキ君!! 暴れないで!!」
 織部・真白(ja0650)は暴れるアカツキを無理やり押さえ込むが、抵抗は中々収まらない。
「眠り病のせいか落ち着いてくれないわね‥‥寝ると怖い夢を見てしまうのが原因なのかしら?」
 セイレ・セーレ(ja2264)は何か手段はないかと、荷物を漁る。
「なんとかアカツキ君をカーペットにお願いします!!」
 マリアン・リンドバーグ(ja2189)に促され、数人掛りでアカツキを移動させる。子供とは言え、キマイランズだけのことはある。大人が数人で本気を出してやっとの作業だった。
「ダメ元で‥‥破邪豆、食べて!!」
 押さえ込まれ、泣き喚くアカツキの口にセイレは破邪豆を放り込む。
「‥‥少しは落ち着いてくれた? ほら、アカツキ君、こっちへ」
 抵抗がなくなったアカツキを真白は誘導する。
「アカツキ君、怖くないですよ。ゆっくり瞳を閉じて‥‥」
 マリアンに言われた通りに目を閉じたアカツキはそれからすぐに眠りに付いた。泣き喚いていたのは眠たかったからというのもあったのだろう。キマイランズであってもその辺りは人間と変わらないようだ。
「なんとか眠ってくれましたね‥‥」
「これじゃあシュリさんの身がもたないよね。早く眠り病について調べないと‥‥」
 念のためにアカツキを見張りながら、マリアンと真白は呼吸を整える。普段からこんな状態だとすれば、母親はどれだけ体力を消耗しているのかと感心せずにはいられない。
「他の方が準備している間は私達が見ていないと。一応カセットテープ、渡しておくわね」
「急成長のことも全く原因がわかりません。いったいどうしたのか‥‥」
 セイレに渡されたテープをセットし、マリアンは首を傾げる。先ほどの抵抗も見た目の成長に見合った腕力を発揮していた。そんな前例があったことなど、誰も今まで聞いたことがない。
「『イリス』の影響‥‥。なのかな?」
 真白はそんなことを考えるが、その答えはわからない。それを調べるためにも調査しようとしているのだが‥‥。
「とにかく、おかしな眠っている時におかしな言動がないか、気をつけてね」
 セイレ達はこれからアカツキが眠っている間ずっとそれを見張らなければならない。
 肉体的な労働の次は精神的な労働。今後のために必要な調査に改めて気合を入れ、眠りに付いたアカツキを見守り始めた。

●身分証明書

「‥‥さて、問題はどうやってホワイトハウス内部に進入するかだが」
 厳重な警備を前に無明大使(ja2259)は思案する。主に警備しているのは一般人ばかりだが、だからといって簡単に抜けられるようなものでもない。
「そうですよね。アメリカ政府の中心。正面から行っても荒事は避けられないです」
「‥‥内部の警備はさすがに堅い。ネズミ1匹潜入するのさえ難しいな」
 政府高官がワイルドカードに対してなんら準備していないはずもない。彼らとて一個人の力で左右されないだけの存在でなければ国を維持していくことなど出来やしないのだから。
 希海あやめ(ja2389)や戸隠・須弥彦(ja1823)が飛び込んだところで、一時的に混乱させるくらいで機能麻痺させることすら難しいだろう。
「安心しろ。おたく達は警察庁から派遣されたガードマンってことになってる」
「これは‥‥アメリカ政府発行の身分証明書、ですか‥‥?」
 情報交換ルートを通じて接触を取ったジャスティス。御仁橋・西二郎(ja2127)から渡されたものを見て須弥彦は驚く。
「どうやってこんなものを‥‥。まさか‥‥?」
 あやめは不審に思いそれを調べるが、本物と寸分違わぬ出来であった。
「おっと、誤解しないでくれよ。盗んできたわけじゃない。これでも防衛技術研究機構のボスだ。これぐらい朝飯前だ」
「サバ言うな。そんなことが出来るとも思えんな。大方、大御所クラスのジャスティスに頼み込んだんだろう」
「ご想像に任せる。当然だが悪用は‥‥やっても良いが、墓穴を掘るぞ」
 つまり、ジャスティスが認めた使い方以外では、却って命取りになる仕掛けをしていることを仄めかした。
「流石に紐付きですか」
 あやめの言葉に
「さあな。俺は頼まれた仕事をしただけだ。こちらの与信を裏切らねばどうって事は無い」
 西二郎は含みを持たせた言い方をした。どうやら身分証明書を用意した者は、ジョーカーが裏切ることも計算の内に入っているようだ。
「そっちにも相当のワルが居るようだな。そうか、タコ親父の手回しか」
 須弥彦は有口(jz0035)の顔を思い浮かべた。
 いや、この非常時だ。使えるものは何でも利用しようとする、アメリカ政府自身の判断かも知れない。
(ならば裏切りが即、こちらを捨て駒に仕立て上げる仕掛けか。恐らくこいつの有効期限も少ない)
 そう目星を付ける無明大使。
「‥‥感謝する。では、行動開始だ」
 西二郎に礼を言って、無明大使達は行動を開始した。

その日の午後。
「約束の物だ。受け取れ」
「ありがとう。感謝するわ」
「これがあれば内部にも潜入し易いはずです」
「ま、今回は共通の敵がいるってことで手を組んでるわけだが。ジョーカーに心を許すなよ。頼むぜ」
 西二郎は都府楼・南(ja1812)やマーク・ネルソン(ja1600)らにも身分証を渡していた。こちらは、ホワイトハウスの警護に当たるワシントンDC首都警察のSWAT隊員の者だ。任務ゆえ、緊急時には大統領の直ぐ傍まで武装して近づくことも可能な身分。ジョーカーに渡した、部外者である日本警官のものとはレベルが違う。
「任せて。なんとか証拠をつかんでみるよ」
 請け負う高城・衝音(ja1649)。
 それにしても、アメリカで何が起こっているのだろう。
「慈愛活動‥‥。天変地異。何か裏があるはずです」
 マークの脳裏からドンキーの存在が消えない。
「‥‥そうだね。決定的証拠を抑えないと」
 意気込む衝音に西二郎は、
「この前後1週間。公務でアメリカ東部に存在する日本警官は居ない。怪しい動きがあれば問答無用だ。この事はあちらの警備筋やジャスティスにも話を通している。それから、合言葉は『フリーズ』に『グリース』咄嗟に返すか、武器を捨てないと撃たれるぞ。その後、所属を聞かれたら『アンノウン(不明)』だ。間違うと、一旦信用した振りをして、いきなりテロリストとして射殺されるぞ」
 と耳打ちした。何かの間違いで迷い込んだ者ならば、『フリーズ』で停止しホールドアップするだろう。また、取り決めを知らなければ、所属を聞かれて『不明』と答える筈がない。
「市民保護の配慮と潜入テロリストの抹殺。やっぱりあちらは危機管理してますね」
 衝音はたらりと冷や汗を流した。
「ひょっとして、これ‥‥。アメリカ政府の手配なのか?」
 その問いに、西二郎は頷く。
「現地では、誰が敵と入れ替わっているか判断が難しい状態。そう有口さんが言っていた」
 まだ敵に侵食されていない同盟国にいるジャスティスに、お鉢が回って来たようだ。

●召命

「異常なし‥‥。っと。巡回完了です」
 巡回を終えた獅子戸竜子(ja1338)を、ノーマ・クルーソーは穏やかな笑みで迎えた。
「お疲れ様です。後は他の者に任せて、奥で休んでください」
 ドンキー教団の女教祖だなんて嘘みたいな自然の笑顔で労われ、竜子はいつものように僅か、不思議な気持ちになる。
「お疲れ様です。でも勤務時間ではありますし‥‥」
「いいのですよ。よければ少し、お話しませんか?」
 けれど、そんな笑みのままで続けられた言葉に、気付かれぬよう気持ちを引き締める。
(あらら‥‥。そちらから声をかけて来るなんて意外だね‥‥)
 胸中でだけ苦笑すると、竜子はゆっくりと頷いた。
「貴方はずっと私の警護についてくれています。もう信頼できる人だと思います」
「そうですか。信用していただき、ありがとうございます」
 言葉と同じく、信頼に満ちた眼差し。
「‥‥そういわれると、どことなく心苦しいんだけどね。でも。どうして教祖なんか始めようと思ったのかな」
 向けられた竜子は僅かな心苦しさを覚えつつ、口を開いた。
「私は今じゃこんな荒事に長けた稼業してますが、以前は普通の女の子だったんですよ。警察官だった兄が悪い奴に殺されるまでは、ね」
 それは紛れもない事実だった。
 悪い奴‥‥ジョーカーに奪われた兄。
 いや、奪われたのはそれまでの全てだった。
 知らず握りしめた拳。
「そう‥‥ですか。やはり‥‥。人はどこかに悲しみを背負っているんですね‥‥」
 ノーマの手がそっと、竜子の拳に重ねられた。
 顔を上げるとそこに在る、痛ましげな哀しげな眼差し。
 それを認め、竜子は知りたかった疑問を口に乗せた。
「師は、いえ、ノーマ。あんたは何でドンキーを始めたのさ?」
「天の父が私に『我が子よ』と呼びかけられたからです。そして、私は自分が新しいメシアとして、母の胎に宿る前に聖別されていた事を識ったのです。父の権威の元、奇跡を為す力もその時賜りました」
 ノーマは、歴史上の預言者のように自分が召された事を確信している。
「父は仰ったのです。裁きの日はもう直ぐであると‥‥」

●お見舞い

「お久しぶりです。陽清さん」
 病室を訪れたのは河飯萌(ja2313)。陽清は本を読んでいた。
「あ、河飯さん。久しぶり。元気にしてましたか?」
 存外に元気そうだ。
「それはこっちのセリフですよ。どうですか?」
 お義理だけではないお見舞いの萌。
「もう全然大丈夫だと思うんだけど‥‥検査を受けることが多くて。詳しく教えてもらえないから不安で‥‥」
(検査‥‥ですか。やはりこの病院で何かを調べている可能性が)
 萌はちょっと難しい顔。それを自分を心配してくれたと感じたのだろう。
「あ、それはそうと。私の仕事、代役してもらってごめんなさい。スケジュール調整も大変だったでしょ?」
 陽清は話題を変える。
「いえいえ。私のお仕事が増えて大助かりですよ。陽清さんより人気者になっちゃうかもですね」
「あ、ひっどーい!! 絶対早く退院してやるんだからー!!」
「ふふっ。冗談ですよ。復帰、お待ちしていますからね」
 結構血色も良いようだ。萌はウインク一つ病室を出た。
 入れ替わりに入ってい来る看護士長さん。
「陽清さん。ちゃんと寝てないと駄目ですよ」
 萌の後ろでドアが閉まる。そのドアの向こうの音を、人造人間の耳は聞きの逃さなかった。
「あらあら、お化粧は駄目だって言ったのに‥‥」
「だって、もう直ぐモンスターズの人達が来るんだよ」

 それから暫く。同じ病室。
「調子はどうです?」
 持ってきた花を花瓶に移しながら、ri−ye、すなわち酉家・甲(ja1809)がベッドの陽清に声を掛ける。可愛らしいいつもの表情に疲れは見えるものの、さほど厳しい状態ではなさそうな張りのある声。
「ただの仕事疲れだって。映画にライヴに働きすぎただろう、今のうちに休んでおけって先生に言われちゃいました」
 舌をぺろりと出しながら。とりあえずは大きな病という事はなさそうである。さすがに病室でもメイクが欠かせないというのは気になったが、アイドルたるものいつでも綺麗な顔であろうという心配りだろうか。
「良かった、ライバルがいないとやっぱり張り合いがなくってねぇ」
 病院では少々目立つ方の格好だが、個室の中なら何の問題もない。長期入院の殿方には目の毒そうな姿のKisaraすなわち如月達也(ja1314)勿論男が足を組み替えつつ、楽しげに笑う。
「んー、でもそうなると‥‥来週のライヴは、やっぱり無理そうですね。どうしても激しいものになっちゃいますし」
「全曲バラードやミディアムテンポ、なんて訳にもいかないからねー。ごめんね、でも次のイベントまでには絶対復帰するから! その為に、今はしっかり休養休養!」
「早く元気になってよ? スーパーアイドルさん☆」
 乙女三人、寄れば姦(かしま)しい。医師の診察時間が来るまで、にぎやかな時間は続いた。人払いをするマネージャーに、酉家が小さく耳打ちする。
「メイクはいいと思うんですが‥‥もう少し刺激の弱いものを用意してあげた方がいいと思います。肌荒れがちょっとひどくなってますね‥‥」
「ええ、その辺はこちらも‥‥皮膚科の先生と話してみようと思ってます」
 マネージャーのつばさが神妙な表情で答えた。

 病院を出て、スタジオへと戻る車内。酉家が呟いたのは、ただの独り言か、それとも投げかけられた疑問か。
「ドンキーが彼女にこだわる理由は何なんでしょうねぇ‥‥。代理だって、モンスターズ以外にもドンキークエスト題材の曲を作ってるバンド色々ありましたし。ジャスティスにだって、ゲームやってるアイドルもいるんですよねぇ。ヒズミや私たちにこだわる理由‥‥うーん」
 その言葉に、運転中の如月が少し考え、返答。
「分からないね。まだ、分からない。もしかしたら、僕たちの作る『歌』に何か関連性があるのかも、ね」
「『歌』‥‥。それは、『ことば』に? それとも、『おと』に?」
 ハンドルを握る手を離さず、肩をすくめて見せる如月は。
「利用されてるかと思うと癪だけど。僕たちは、僕たちに今出来ることをやろうじゃないか。待っててくれる人がいるんだからさ」
 車は一路、ブラッドピジョン(jz0036)らの待つスタジオへ。

●お化粧の下

「陽清ちゃん、お食事よ」
 天野つばさ(ja0087)がトレイを前に置いた。今丁度、看護士長さんがお熱を測りに来たところだ。
「ありがとう。さっきモンスターズの人たちが来てたのよ。もう少し早ければ会えたのにね」
 ウエットティッシュで手を拭く陽清。
(ま、いることを知っていた上で会わないようにしたんですけどね‥‥)
 つばさはちょっと苦笑い。
「そうなんですか? 僕も会いたかったなぁ‥‥」
 そう言うお子様は、つばさに頼み込んで連れて来て貰った明(あきら)と言うファンの男の子。と言う設定の胡蝶・亜都真(ja1679)。蕾を使って姿こそ10歳の少年に成りすましているが、その、見た目より子供子供しすぎたおしゃべりに、ちょっとつばさは頭が痛い。
「ねぇ。どーしてもだめ〜? お兄ちゃんも会いたいっていってるんですけど‥‥」
「んー‥‥。嫌ってわけじゃないんだけど。やっぱ年頃の男の人と会うっていうのは‥‥」
 事前の打ち合わせも無く突然言い出した亜都真に
(そんなの聞いていないよ〜)
 と、つばさ。見舞いに来たジャスティスメンバーに対しては、『他人』という態度を貫かないと、色々ヤバイのだ。
(だったら、最初から大人の姿で来い!)
 と、怒鳴ることが出来たら、どんなにか楽だろう。

 そこへ
「やっほー!! お見舞いにきたよー!!」
 涼村ミク(ja2101)のご登場。
「ちょ‥‥ちょっと。病院では静かにしようよ‥‥」
 気が気でない付き添いの河原まさご(ja1691)はフルーツバスケットを持ってあたふた。
「ゴメンね、一度水泳大会で一緒になっただけなのに‥‥同級生に話したらサイン頼まれちゃって」
 と、つばさに詫び、
「つばさ先輩から、お見舞いの話を小耳に挟んだもんだから、これ幸いとくっついて来ちゃった、エヘヘ」
 頭を掻くまさご。
(ちょ。ちょっと‥‥。そう言う設定は事前に教えて‥‥)
 でもまあ、対処出来ないわけじゃない。幸いつばさの動揺の間は、
「昔、点滴が一般的でない時代は、これを絞って飲ませたんだって」
 ミクが繋いでくれた。バスケットから取り出す見事なブドウの房。マスカット・オブ・アレクサンドリア。所謂本物のマスカットだ。
 そのミクの後ろから
「お邪魔するよ」
 とマザー(jz0034)。
「え‥‥えっと、私も失礼させてもらってよかったのかしら‥‥?」
 おずおずと入って来るのは、大門光(ja2298)。
「あ、ミクちゃん。相変わらず元気そうね。えっと、そっちの人達は?」
 陽清が訊ねるのと入れ替わりに
「タフネスマザー! え? ええっ!?」
 士長さんが答えを言った。マザーは意外そうに
「おや。あたしをしってるのかい」
 そう。往年のプロレスファンなら知っているが、若い者だとサッパリだ。
「うん、あまり大袈裟にしたくなかったから、エレンさんは私の付き人名目でね」
 ミクの言葉に、五十路に掛る看護士長さんはなるほどと頷いた。
「大門さんはあたしのお友達で、陽清ちゃんの大ファンだっていうからさ」
 ミクがおしゃべりを始めた。つばさは何か思い出せしたように
「‥‥あ!! 私、ちょっと買い物に‥‥!! 明君も手伝って」
 と亜都真の手を引く。
「う、うん!! 陽清さん、また後でね!!」
「‥‥行っちゃった」
 その慌しさに、光は閉まったドアの先を暫く見つめていたほどだ。
「で、ごめんなんだけど‥‥。陽清ちゃん、あたしも友達にサイン頼まれちゃって‥‥」
 まさごが色紙を並べる。陽清はちょっと嬉しそうに
「あはは‥‥いいわよ。ホントにお見舞いにきてくれたんだか怪しくなってきたわね」
「ホントだってば!! ライバルを心配するのは当然だよ。それにほら、お土産だって‥‥」
 ミクが文字入りの水晶のネックレスを取り出す。
「大珠が8つ。黒水晶の小珠が100」
「えっと‥‥なんなんだい、それは。怪しいものにしか見えないよ」
 覗き込むマザー。大珠には仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が入っていた。
「あら? 知りません? 霊験あらたかな厄除け。お兄ちゃんの会社の通販広告に載ってた、力が溢れる不思議な珠だよ」
 月刊アトランを取り出して見せる。攻撃精霊の小瓶だの、ギャンブル馬鹿ツキのブレスレットだの、怪しげな広告が載っている。
「陽清さん。そろそろ‥‥」
 看護士長さんが促した。
「ごめんなさい。そろそろ定期検診がある時間なの。だから‥‥」
「あ‥‥そうなの? それじゃあ‥‥仕方ないね」
 ミクが退散の準備。
「それじゃあ陽清ちゃん。早く復帰できるように祈ってるわね」
 まさごがドアの所で手を振った。

 それから暫くして、用事を済ませたつばさが戻ってみると、病室内は大騒ぎであった。
「つばささん大変。盗聴器が見つかったの。あの縫いぐるみからよ」
 陽清が言う。
(あちゃ〜。見つかっちゃった。知らない振り、知らない振り)
 つばさの顔に焦りが出たが、
「ストーカーって奴でしょうか? この縫いぐるみ、どこで買いました?」
 と、皆それはマネージャーとしての失態故と解し、誰もつばさ本人を疑っていないのは不幸中の幸いだった。
 平謝りに陽清に謝るつばさ。騒ぎが収まりほっとした瞬間
(あれ?)
 つばさは検査のためメイクを落とした陽清の、著しい肌の荒れに初めて気が付いた。既に10代の肌ではない。
(このままじゃ、陽清ちゃん。ヤバイかも‥‥)
 そしてジョーカーに連れ去られた陽蔓に思いを巡らせる。人工透析が、実は陽蔓との血液交換であったとしたら、それを行っていない陽清の身体に異変が起きても当たり前だ。

●密会

「先に行ってくれ」
 そう仲間に告げると、達哉は一人駐車場に残った。
 そして、影から現れた武曲罠兎(ja1374)に達哉は言った。
「直前の申し込みで申し訳ないが君には期待している」
 しかし真珠は
「残念だけど、歌で勝負する気は無いわよ。そもそも貴方はドンキーの勢力拡大を望む立場なのかしら?
私の今回の望みは芸能界からドンキーの影響力を減らすこと。ドンキーを排除すると言う目的で一致する上でなら、陽清さんやドンキーについての情報交換ってプランを提示するわよ」
「確かに連中の勢力拡大は好ましくない。‥‥が、君は自分の奥底に眠る物を表現したいとは思わないのかね?」
 達哉の呼びかけに罠兎は笑い
「‥‥まぁ、このままドンキーの広告塔として活動し続けるつもりなら、最終的には芸能界から排除する行動に出るつもりだけどね」
「図らずもそうなっている事にこちらとしては苦慮している」
 苦笑いする達哉。
「私が望むのは芸能界が荒らされないことよ。一応、行動予定にそちらがドンキーに付くのが望まないなら、移籍の仲介も視野に入れて動いてると一応、言っておくわ」
 罠兎としては、自分の表の商売を荒らされるのではたまらない。
 達哉は威儀を正し
「‥‥君に一つだけ真実を告げよう。僕は陽清を連れ出したい。彼女にはより良い環境で治療に専念してもらい、その声を広く万民に伝えてほしいと思う。ELOの庇護下に入ることが望ましいがそれが許さないならそちらで預かってもらう事も視野に入れている。芸能活動と政治利用は切り離して運営されるべきものだと僕は考えている」
 罠兎は溜息一つ。
「‥‥こちらとしてもその気持ちは変わらないわ」
「以前、そちらが起こした病院の事件の関係もあって警備は強化されているだろう。こちらとしては事を構えるつもりもない。普通にお見舞いは行くが」
「では、本当に失礼するわね。こちらも色々立て込んでるからね」
 罠兎は踵を返す。その靴音が静かな駐車場に響き渡った。

●I探索作戦〜突撃イグザリオン

「隔壁を破壊します‥‥伏せてください」
 宣言通りに隔壁を破壊し、黒き雌鳥(ja1408)はタイムストップで刻を止める。その間に生霊を先行させ状況を確認するが、特に問題となるようなものは見当たらない。
「今のところ罠はないみたいだね‥‥何もない。ってことはないと思うんだけど‥‥」
 破壊の余波が収まる前に周囲を見回し、プロフェッサーA2(ja1071)はテレパシーで送られた情報も組み合わせ、状況を把握する。
「依然異常なし。ついて来て下さい」
 それらの情報と自身の能力から安全と判断し、イゼル・アイン(ja2027)は先行した。
「ジャスティスとかもおらんみたいやねぇ。鉢合わせたらどーしよーかとおもっとったけど」
 CT(ja1828)は尤も妨害してきそうな存在の影が見えないことを安堵しつつ、先を急ぐ。物理的なトラップやセキュリティなどと比べるとワイルドカードはそれ単体で障害となりうる可能性を秘めている。
「あくまでデータ収集だからね。余計な戦闘は避けたいわ」
 ドクトルスマラクト(ja1345)はそう言いながらセキュリティロックを解除する。最初の爆破の影響による防火扉程度であれば、下手に破壊するよりも手間をかけたほうが結果として時間はかからない。
「お任せしますよ。機械の知識はどうにも疎くて」
 Dヴァルキリー(ja1035)は念のために周辺の警戒を行っていた。この場にいなくとも問題が起きればそれに対処するために動く物はいくらでも考えられる。
「残り物には福があるというが‥‥そこ、触れてはいかんぞ」
 更に奥へと進み‥‥布都御魂剣巫女(ja1555)は突然静止を呼びかけた。
「電磁波発生装置か。罠がまだ起動してるとなれば厄介だな」
 キルブレード(ja1056)は手近な装置を破壊したが、装置は剣足の間合いにあるものばかりではない。
「大丈夫。私が幽体で先行して調べていきますから」
 黒き雌鳥がそう言うと同時にその姿が通路の先に転移する。同時に齎された情報を元に次々と装置が解除されていく。
「破邪豆も持ってきてるわ。いざって時はつかっていいわよ」
 イゼル・アインはそう申し出たが、殆ど無人の警備相手にその必要性はなさそうだった。

「さて。なんとか目的のものまで到着したが‥‥」
「警戒は任せて。データ回収をお願いします」
 ここに来るまでに、なんどかアンデットとの遭遇した。やはり、イグザリオン復活はガルバの仕業なのだ。
 尤も、遭遇したのは今の彼らにとってはちょっとした障害に過ぎない少数であった。
「何もないに越したことはないんやけどねぇ。なんてーかこう、威圧感がぴりぴりするわ‥‥」
 警備システムを乗り越えた布都御魂剣巫女とDヴァルキリーが内部の安全を確保すると、すぐにCTはコントロールパネルに張り付く。
 データ量はたいしたことはない。が、そのセキュリティの高さはいかんともしがたい。個々に分割され、セキュリティも別個の物を用意する念の入り用だ。
「‥‥まて。それ以上データを持ち出すことは許さん」
 そこにエリュトロン(jz0108)が割って入る。
「‥‥何もいないってことはないと思っていたが。大物だな」
 キルブレードの斬撃をエリュトロンは捌き、その足を止めさせる。
「あぁもぅ!! 予感的中ってやつだよ!!」
 プロフェッサーA2はそう言いながらもセキュリティロックの解除に勤しむが、作業は遅々として進まない。技量の問題ではない。意図的にコンピュータの回線速度を落とす半ば物理的な時間稼ぎ。回線のネックとなる部分でデータ転送が遅らされているのだ。
「‥‥邪魔はさせない!!」
「援護します!!」
 少しでも時間を稼ごうとイゼル・アインと黒き雌鳥が割り込むが‥‥。
「‥‥たいしたことないな。‥‥はっ!!」
 僅かに足を引かせはしたが、エリュトロンが剣を一閃しただけで蹴散らされる。
「時間があれば妖怪さんの1体や2体用意できるのだが‥‥データ回収急げ!!」
「ええっと‥‥」
 布都御魂剣巫女は焦るが、作業は中々進まない。が、CTが苦戦していると、データのプロテクト解除が一気に進んでいく。
「‥‥ハッキング?! 外部から‥‥?」
 一瞬邪魔が入ったのかと危惧したが、あちらもプロテクトの解除とデータの吸い出しに専念しているらしい。
 念のためにアクセス元を探る。推測されるのはシールドシップ。デルファイの支援だろう。
「これはこう!! よし!! 上手くいったで!!」
 それらのプロテクト解除されたデータを拾い集める。後はそれらを持ち出し、逃げるだけだ。
「やはり腕は立つ‥‥しかし!!」
「何‥‥ぐはっ‥‥!!」
 一方、キルブレードの方もエリュトロンに一矢報いていた。
「剣をブン回してる時は見た目に恐ろしいが‥‥防御だ。さしものエリュトロンも、攻撃に切り替わる機が隙だな」
「見抜いたか‥‥しかしもう遅い。援軍がこちらに駆けつけるころだ。‥‥それにそちらもこれ以上は切り結べまい」
 説明しようッ! と言う必要がないほどに説明的なセリフで説明を終え、キルブレードとエリュトロンは互いに武器を構えたままで微動だにしない。僅かに滴り落ちる血が時の流れを告げている。弱点を見抜かれれば、瞬時にその隙が生まれぬ太刀筋に切り替えるだけのこと。切り替えられればそれに通じる太刀筋で対処するだけ。そして、二人はその先の先まで読むことが出来るだけの達人でもある。その先の読み合いは単純化すればじゃんけんのようなものだ。どう動こうとも対処できる手段は互いに隠し持っている。
「データ回収、完了したよ!!」
 そんな睨みあいの横でプロフェッサーA2が回収したデータをまとめ、持ち出す。
「長居は無用!! みんな、捕まってください!! 脱出します!!」
 Dヴァルキリーを中心に集まり離脱。基本的に逃げるものを追うにはより多くの数が必要となる。しかし、エリュトロンに預けられていた手駒は充分ではなかった。元々、μ空間に潜むイグザリオンには、三鬼衆も警護の必要を感じなかった為である。
「‥‥逃げられたか。まぁいい。他の個所の警備を固めろ」
 奪還を諦め、これ以上の被害の拡大を防ぐためエリュトロンは、三鬼衆より預けられたヴァンパイアスレイヴ達に指示を飛ばした。

●DCジョーカーズ

「しかし無明大使様。『アンノウン』がどういった存在かわからない以上。接触も難しいのでは?」
「上層部の人間であることは間違いない。ELOの職員から怪しい人物はある程度絞りこんでいる」
 あやめと無明大使は、日本から連絡に派遣された公安関係者の資格で、警備のための巡回を装いながら内部を歩く。流石に大統領周りの中枢には入り込めないが、機を見てここから仕掛けるのは可能な位置だ。
「しらみつぶしにそいつらをあたるのか? さすがに厳しいとは思うが‥‥」
「やるしか‥‥ない」
 情報がないのはきついが須弥彦やカタリーナ=クリューガー(ja2032)が行動しなければ、何もわからないレベルでことは進んでいる。下っ端の戦闘員達では集められる情報も、接触できる人物も限られているのだ。
「そうですね。目的は排除ではなく交渉。戦闘を起こさなければ騒ぎも大きくならないはず」
「万一のことは想定しているが。身分の関係上ある程度自由に行き来はできる。上層部の人間とどう接触するかが問題だ」
 戦闘行為さえ行わなければ、今のあやめ達が持つ警備員の身分でもかなりのレベルの人物にまで接触はできる。だが、接触方法についてはある程度考えておかなければ須弥彦達とすれ違うだけで終わるようなことも考えられた。
「とにかく夜まで動くのは控えるか。暗くなればマントとブーツを駆使して警備を潜り抜ける。停電を起こせば更にやりやすい」
 特に昼間は他の警備員の目もあるし、『アンノウン』が普段上層部の仕事をしていることを考えれば監視の目もきついだろう。無明大使はそれらのことを踏まえ、警備システムの配置のチェックを行いながら警備員の仕事をこなし続ける。
「発電所には予め連絡をとってあるわ」
「では‥‥それまではあくまで、警備員として」
 すれ違いざまに南とその時間についての連絡をかわし、カタリーナは警備に専念し始めた。

●新聞記者

「現地の情報によれば‥‥。やはりホワイトハウス近辺が怪しいと」
 星・光一(ja2165)は、政府の遅い災害対応に抗議する市民団体のデモを見た。
 恐らく、動くに動けない事態が起こっているのだろう。
「地元新聞にも当たってみたが。大きな収穫はなしだ。ドンキーが漏れないようにしてるのか?」
 カメラを吊るし、記者の身分証明書をひらひらさせる十文字ショウ(ja2167)。
「やはりここは地元の人に聞き込みが1番っす!! 見落としてることがあるかもしれないっす!!」
 緋袴冴子(ja2328)はマイクと録音機片手。
「‥‥だな。このままジャーナリストとして取材名目で調査を行います」
 光一が二人を見やるとショウは
「で、俺はその助手だな。とにかく怪しい相手を特定することに専念だ」
「それじゃああたいも助手としてがんばるっす!! 兄貴たち!! よろしくっす!!」
 冴子は頼もしげな二人の後に続いた。

●ジョーカーの方針

「ガルバは気に食わんが‥‥やはりドンキーを叩くのが先決だな」
 色々と思案した結果、黒田嶺司(ja0698)はそう結論付けた。ガルバのやり方はともかく最終的な目的は人類に益になる。しかし、ドンキーの方は表向き人々を救っているが、裏では利用するための手駒を増やしているだけ。どちらをあとにすべきか、その推測される目的から考えればその結論は間違いではない。
 しかし、表面だけ見れば逆の方が利はある。うまく立ち回ればドンキーが人々の役に立ち、ガルバは最終的には世界を救済するとも言えなくはないのだから。
 どちらを選んでも苦難の道が待ち受けていることに代わりはないが、万が一のことを考えればドンキーを叩く方を優先しておかなければ手遅れになる。
「それじゃあ‥‥今はガルバさんに協力するってこと?」
「そうですね。ガルバ様もヘレルの長子を降臨はさせたいでしょうし、約束にも反しないわよね」
「ではガルバには一時助勢する旨を伝えよう。私のほうは独自で情報収集を行う」
 シーリィ・H(ja2163)の疑問に烏鳩(ja0226)が答え、嶺司は意見がまとまったことを確認するとガルバに連絡する。直接は無理でもガルバに意思を伝える手段はいくらでもある。
「えっと、私達のほうはドンキー内部から調査。でいいんだよね?」
 シーリィは準備を整えながら確認する。準備といっても、用意する物は信者に成りすますための衣類や被災者救援のための物資だ。
「本部に面会を申しでましょう。大丈夫。内部にはジョーカーの面子もいますし。今までの話を聞く限りドンキーの警備はかなり手薄のようです」
「気をつけろ。何も考えずにすべての人間を通しているわけでもあるまい」
「その辺りのことも問題ありません。状況も情報も混乱気味ですが、全てのネットワークが使い物にならないわけではありませんから」
 情報と状況が味方についているため多少楽観的になっている烏鳩に嶺司は忠告する。尤も、その辺りの準備で抜かるほど烏鳩も経験は浅くはない。情報がないことが情報になるということもある。一般人の情報網が途絶えていてもワイルドカードの力を持ってすれば、その混乱の著しい場所の情報を集中して集めれば、問題はない。
「うん。なんとか被災地支援にいければ、そこの人たちにも協力は求められるね」
 その端末に表示された情報を見て、シーリィは少し安心する。
「では行きましょうか。考えるよりまず行動。です」
 そして、烏鳩は被災地へと向かった。
 そこで教団の関係者を捕まえれば、あとはいくらでも手はある。烏鳩にとって、何であれそれが楽しめれば何でも良いのだから。

●被災地救援隊

「これは酷い‥‥ですね」
 カリフォルニアの大地で、真紅忠志(ja2281)は茫然ともらした。
 合衆国カルフォルニア州。
 地震と津波による惨状、更にインターネット回線の異常が追い打ちを掛けていた。
「さっそく救助活動にあたりましょうか。急がないと大変なことになりそうです」
 その肩を叩いたのは、フィーネ・バルマー(ja2409)だった。
 忠志とそして、リム・フェザー(ja2323)の肩を、励ましを込めて。
「そう‥‥ですね。ドンキーのことを調べるよりも人命救助が先です」
 やはり竦んでいたリムは、一つ深呼吸をすると一歩、踏み出した。
「大丈夫ですか!! しっかりしてください!!」
 表情を引き締めた忠志もまた、手を差し伸べた。
 被災者の元に駆け寄り、膝を突いて必死に呼びかけ励ましながら。
「ここは危険です。さぁ、捕まってください!!」
 リムもまた、助けを求める人達を懸命に助けた。
「物資支給のため、瓦礫をどかします。人の誘導をお願いします」
「わっ、わかりました」
 そして、フィーネは、集まりつつあるボランティア団体の者達に次々と指示を出していく。
 予想以上の現状に動きの鈍かった者達が、やはり我に返ったように救助活動を開始したのだった。

「他の支援団体の方もいるようですね。効率よく進み助かりました」
 ようやく一息ついた忠志が、思わず頬を緩めていると。
「‥‥ぉぎゃあぁぁぁぁぁッ!?」
「あ、赤ちゃん。おなかがすいているの? それじゃああたしの‥‥」
 火がついたように泣く赤ちゃんを抱き上げたフィーネが、母乳が出る訳でもないが、せめて心を満たしてあげようと、躊躇い無く胸を露わにし。
「うわっ!! す、すいません!!」
 まともに見てしまったドンキー信者が、顔を真っ赤にして慌てて目を覆った。
「あ!? こちらこそ‥‥。あは‥‥あはははは‥‥」
 服を元通りに着こみつつ、誤魔化すように乾いた笑い声を立てるフィーネと、真っ赤なまま困り果てる信者の男性。
「どうしました? 人員不足ならお手伝いしますよ」
 見かねたリムが声を掛けると、信者はホッと息を吐いて、プラスチックケースに入ったディスクを差し出した。
「このデータ。預かっててもらえないか? 土木作業が多くなりそうで壊すと不安でな」
「わかりました。大切に預かります」
 二つ返事で受け取るリムに、信者は申し訳なさそうなホッとしたような顔でもう一度頭を下げて行った。

「‥‥それって、もしかして」
 小さく息を呑んだ忠志に、リムは頷いた。
「何か重要なデータの可能性がありますね」
「‥‥持ち帰りますか?」
「いえ。ばれてしまうと後々厄介です。ここで解析してみるしかありませんね」
 フィーネに首を振るリムに、忠志も同意した。
「先ほどの方も何も知らない信者のようですね。おそらく知らずに重要なものを預かってしまったのかと」
 でなければ、あぁも簡単に渡しはしなかっただろう。
「では私たちは救援活動を再開します。ドンキーの手に渡るまでに‥‥お願いします」
 そしてフィーネはディスクをリムに託し、忠志と共に立ち上がった。
 リムの分まで人々を救う為に。

 同じ頃、ジョーカー達もまた、被災地に入っていた。
 トラックから降ろされる食料や飲料水の入ったポリタンク。
 ルート・アルゴ(ja2295)の手配りでノーパンクタイヤにしておいて良かった。
 被災地にやって来た、ドンキー以外の民間ボランティアは、大多数パンクして途中で立ち往生していたのだ。
「いかがです? これだけの食料があれば充分かと」
「ありがとうございます‥‥。これで数日は飢えを凌げます‥‥」
 にこやかに言うプリンセス・G(ja1952)に、現地住人達が涙を流さんばかりの面持ちで、何度も何度も頭を下げた。
「いえいえ。困ったことがあれば我々を頼ってください」
 そんな住人達にダメ押しとばかりに、ルートが親切そうに微笑んだ。
 けれども。
「やれやれ。地球人に移住を拒否されて滅んだ世界の生き残りが‥‥滅びの予兆に怯えている人間どもを助ける演技とは‥‥皮肉なものよのう」
 二人だけになれば、そんな演技は必要なかった。
 皮肉げな笑みを刻みつつ小さく肩をすくめてから、プリンセス・Gは問うた。
「‥‥さて。教団の動きはどうじゃ?」
「今のところ大きな動きはありません。救援活動を行っているだけで‥‥」
 報告の途中、ルートの端末が音を立てた。
「‥‥待ってください。今連絡が入りました。ドンキー信者の幹部らしき人間が集まっていると」
「幹部? わざわざこんな偏狭の地に‥‥。救援活動というわけでもあるまい」
「‥‥調べますか?」
「よし、戦闘員達を変装させ、近くに待機させるんじゃ!!」
 プリンセス・Gの命令に従い、ルートはすぐさま行動に移った。

 翌日。
「‥‥以上で報告終わります」
 ルートの報告内容を反芻し、プリンセス・Gは
「‥‥なるほど」
 と呟いた。
「救援と同時に信仰活動。そしてそのままここに新たな教団支部とするか」
「どうしますか? 出ている杭は打ち込んでおくべきかと」
 プリンセス・Gは僅かに考えてから、首を振った。
「いや、今の戦力では厳しい。まずはDS団本部に情報を伝えるんじゃ。そしてすぐに対策を」
「わかりました。奴らに感づかれないよう気をつけます」
 ルートは恭しく頭を下げたのだった。

●再会、沢木姉妹

 G型級円盤。沢木陽蔓(jz0068)を護って死んだ赤井・狐弥の遺志を継ぐ者達がエスコートする。
 場を仕切る黒井・華麗(ja1430)が
「では今のうち作戦内容を確認しておきますよ」
 と視線を横に凪ぐように走らせると、show・you(ja2031)は直ぐに
「ジャスティス側5名、こちら3名で交渉。ジャスティスはララの赤子と親、そしてこちらは沢木嬢」
 と合意事項を述べる。
「もしジャスティスが関係のない人員、または必要以上の人数でやってきたらその時点で交渉決裂でありまするか?」
「そうだな。俺たちとしては情報を聞き出したいだけだが。ジャスティスがそれを信用してくれるかどうか」
 悲歌・柴生(ja0105)に応えるごんぶと(ja0744)。
「あの‥‥。私はいったい何をすれば?」
 戸惑う陽蔓に荒世(ja0626)はにっこり
「心配しなくていいですよ。ララさんにあってもらうだけですからね」
「私は円盤内で待機しておきますよ。万一に備えて」
 華麗は、ではと役割を確認。
「ドンキーにも気をつけないとな。どこから妨害してくるかわからん」
 ごんぶとはパシッと左の掌で右の拳を受け止める。
「私は陽蔓さんと親子さんの様子を注意深くみておくでするよ」
 柴生も自分の役割を口にする。これで全員の役割が確認された。
(‥‥本当に大丈夫なんでしょうか?いろいろと不安が‥‥)
 そんな陽蔓の心を察するように
「難しく考えないの!! 親戚の家に遊びに行くぐらいの気持ちで大丈夫!!」
 ぎゅっと荒世は抱きしめた。
「‥‥到着しました。各員、よろしくお願いします」
 show・youの声が始まりを告げた。

 さて、こちらはG型円盤で飛ぶジャスティス達。
 会見の場はこちらで指定した。宇宙空間でと言う意見も出たが、邪魔する者はドンキーだけとは限らない。漆原祐(ja0289)は色々と吟味した結果、万一の事故にも対応でき、かつ辺りが見渡せる開けた土地を選択した。
 身を潜める樹木や岩、茂みもない真っ平らな塩の大地。それは、恐ろしいほど裏のない中立地帯であった。
「‥‥わかった。もうすぐ到着する」
 ジョーカーと交信する祐の声を聞きながら、秋月・桔梗(ja2093)は危ぶむ。
「しかし。ジョーカーは交渉どおりに動いてくれるのでしょか? 何か裏があるのやも‥‥」
 それは当然の心配だ。しかし、
「それはそうだけど‥‥」
 漆原静流(ja0368)はその不安を払う。ジョーカー達には、ピュアで小細工など考えもしない祐を高く評価する連中が多い。そしてそんな連中は、決まって矜持と美学を持つ者達だ。だまし討ちなどしないだろう。と
「もう直ぐだね」
 陽月の声に年相応の幼さが響く。
「陽蔓さん。お元気なんでしょうか」
 ぎゅっとランを抱きしめて、やや警戒の色が見えるララ・シュタイン(jz0037)。
 宇佐美・観月(ja1720)は
「付き添えるのは5人までだよね。あたしは‥‥影でドンキーに警戒しておくね」
 頷き祐は
「ガルバのこともある。油断はするなよ。どこに敵が潜んでいるかわからないからな」
 と声を掛ける。桔梗も
「常にデータは記録し本部に転送します。証拠隠滅されぬよう」
 と役目を確認した。
(万一に備えてランちゃんに発信機を取り付けたわ。さすがにララさんには言えないから‥‥)
 耳打ちする姉に黙って頷き
「‥‥そろそろ到着だ。準備はいいか?」
 祐が先頭。
「祐くん‥‥気をつけてね‥‥」
 観月がその背を見送った。

 円盤を降りると、昨夜の雨で塩の砂漠は鏡のよう。青い空と白い雲を映して、幻想的な風景であった。
 ここは地球で一番平らな大地と言われる場所だ。

 出迎えの先頭はshow・you。
「さて、約束どおり5人でやってきましたね」
 祐は油断なく言った。
「陽月とララ親子を連れてきたぞ。陽蔓にあわせてもらおうか」
「一緒にいますよ。‥‥陽蔓さん」
 荒世の影から出て来る陽蔓。
 何年ぶりだろう。陽月は声も無く陽蔓を抱きしめた。刷り込まれた記憶がもたらす混乱か? やや困ったような表情を見せる陽蔓。
「陽蔓ちゃん。体調悪くしてない? 見てあげるわよ?」
 静流が進み出る。
「ララさんお元気そうでする。よかったでありまする〜」
 微塵も敵意の無い柴生。
 
(‥‥どうやらジョーカーは仕掛けてくる様子はなさそうですね。しかし油断はできません)
 離れた位置で様子を伺い、なおも警戒を解かぬ桔梗。
「感動の再会は判りますが。先に用件を済ませてください。いつドンキーがやってくるとも知れません」
 show・youに華麗の通信が入る。
「今のところは異常なしだよ」
 祐に観月の報告が来る。
 ごんぶとが背を向けて言った。
「周囲には警戒しておく。今のうちに‥‥」

●ランの容態

 ジャティスのG型円盤内。祐ゆえに、ジョーカーは陽蔓が中に入るのを認めた。但し、荒世らと共に。
 ランが眠り病なので、危険は冒せないと言う条件を飲んだのである。
「熱はなし。大丈夫ですよ」
雷鳳結依(ja1155)は体温や脈拍などのデータを取り、異常がないことを確認してからそう告げた。
「すいません、みなさん。何から何まで‥‥」
「気にしないで欲しいのレツ。困った時はお互い様なのレツ!!」
「そうそう。同じママさんですもの。子育ての大変さはよくわかってるわよ」
 申し訳なさそうに告げるララにオムレッツ(ja2035)や早水絢(ja2363)は笑顔でそう答える。
「それに。陽月さんとも無事に再会できてよかったですね」
「‥‥みなさん。私のこと‥‥」
「それ以上はいっちゃダメなのレツ!! 今はみんな仲良くするのレツ!!」
「そうですよ。お友達‥‥でしょう?」
 霞沢絵梨(ja1309)の後ろで陽蔓が落ち込んだ表情で何かを言おうとしたのをオムレッツや結依が留める。
「‥‥ありがとうございます」
「‥‥ふふっ。ランも貴方にあえて喜んでるわよ」
 ようやく笑顔を見せた陽蔓にララは親子二人の笑顔で返す。
「ほら。陽蔓さんも。ランちゃんを抱いてあげてください」
「泣いちゃったりしないかしら‥‥ランちゃん。始めましてー」
「喜んでるわよ。ほら、陽蔓おねえちゃんですよー」
 眠ったままでも判るのか、ランは天使の笑み。
 絵梨に促され、おっかなびっくりといった様子で抱きかかえる陽蔓の腕の中でランが微笑む。
「こっちの洗濯物。洗っておくわよ。3人はゆっくりしててね」
 そんな三人を置いて、絢達は部屋を出て行った。
「ドンキーの連中はやってこないようレツね」
「できれば今戦闘はしたくありません。万一襲われてしまえば戦いは避けられませんが‥‥」
 部屋を出たところでオムレッツと結依は深刻な顔で警備システムの状況を確認する。周辺に異常は見当たらないが、油断は出来ない。
「他のみんながランちゃんを調べるため準備中です。くれぐれも警戒は怠らないように‥‥」
「了解。依然気が抜けないわね‥‥」
 絵梨に頷き、絢は部屋の中と外の空気の差に思わず溜息を漏らした。

「ランちゃんは眠ってくれたようですね」
「‥‥では。開始しましょうか」
 絵梨とドロシー・ホーク(ja2304)は眠ったランに装置を取り付け始めた。
「ランは‥‥大丈夫なのでしょうか」
 それをララは不安そうに見守っている。何をされるのかわからない不安ではない。単に母親として、そんな装置に頼らなければ子供のことがわからない不安が自信をなくさせているのだ。
「微力ですが‥‥テレパシーでランちゃんの意思を読み取りたいと思います。ララさんもよければランちゃんの手を握ってあげてください」
 絵梨に言われ、ララはランの手を握る。
「あちらの子供も預言者を欲しているとなると‥‥やはりイリス」
 ドロシーは装置の調整をしながら、そんなことを呟く。現状、尤も異変の原因と考えられるのはそれしかない。
「ラン。いい子いい子‥‥」
ララに手を握られたランは落ち着いたらしく、脈拍も安定している。
「落ち着いてくれてます‥‥今なら上手くいくかも‥‥」
「‥‥こちらも老師と相談してみますね。何かよい方法がないか‥‥」
 ランのことを絵梨に任せ、ドロシーは老師に連絡を取るために動き出した。

●預言

 請われるままにランを抱いている陽蔓。
 間も無く、トランス状態なりふらついた陽蔓を祐が支えた。
―――――――――――――――――――――――
 聞いて、ララ。

 偉大なる族長の子が、運命を変える。
 庶子・猶子・嫡子の子ら。
 平和の子・敵(かたき)の子・朝日の子。

 虹は黄泉の影、混沌の影。
 七つの鍵の放たれし時、
 陽は友を勇者とし、陽はしもべを従える。

 見よ、三つのしもべが甦る。
 知恵の盾が雷霆と騎士を甦らせる時、
 明けの君が上って来る。
 勇気の剣が眷属(やから)を総(す)べ、
 騎士は姫を堅く包む。

 ララ。待ってて、直ぐに大きくなるから
―――――――――――――――――――――――
 ここまで言って、陽蔓はぐったりと成った。
「ラン!? ラン!」
 ララが呼ばわる。相変わらず寝たままのランが、また急成長を始めた。見ていて判るほどの変化だ。

「何者かがそっちに向かってるよ!! 気をつけて!!」
 観月からの通信が入る。見渡す祐の目にはまだも何も映らない。しかし桔梗が
「もしやドンキーですか!! 陽蔓さん!! ララさん!! 私の後ろに!!」
 と、身構えた。
 荒世も警戒をしつつ、
「事がすんだ後でよかった‥‥とも言えないわね!!」
 目覚めた陽蔓が、何かを感じ
「ごめんなさい。今は、まだ行けません」
 と陽月に言い、ひっしと荒世にしがみ付く。
 祐は頷き
「わかった。陽蔓の好きなように」
 素直に同意した。それを見たshow・youは、
「何れまた機会があります。そちらも陽月さんを護って下さい」
 と言いジョーカーを先導。
「早くするでありまする!!」
 柴生が陽蔓をジョーカーのG型級円盤に引っ張り上げ、招かれざる闖入者の到着する前に、ジャスティスとジョーカーは、会見の地を後にした。
 そいつが何者かを見定めたい者もいたが、ララやラン、陽月や陽蔓を危険に晒すわけにも行かない。
 今は走為上こそ最上の計だ。

●クラウドキル

(教団内のパソコンにデータはありませんか‥‥。他の信者に見られるとまずいですからね‥‥)
 慎重にデータを調べながら、クラリッサ・アイリーン(ja2377)は小さく吐息を吐いた。
(と、なると‥‥。資料室でしょうか? しかしあそこに潜入できるかどうか‥‥)
 それでも、やるしかない事は他ならぬクラリッサが一番良く分かっていた。
 忍び来た資料室の前で、しかし、クラリッサは逡巡した。
「‥‥誰もいない? 確か今は獅子戸さんの警備時間じゃ‥‥。確認している暇はありませんね」
 しかし、グズグズしている暇はなかった。
 意を決して足を踏み入れた、資料室。
(これだけの資料‥‥。探る時間があるか‥‥)
 そこに収められていた膨大な資料に、知らず軽く唇を噛んだ、その時。
 突然背後から抱きすくめられ口を塞がれ、
「Σ!?」
 クラリッサの心臓が跳ねた。
「しっ!! 大丈夫‥‥。私だよ」
 だが反射的に動こうとする前、耳にスルリと届いた声は旧知のものだった。
「な‥‥獅子戸さんじゃないですか!? 驚かせないでくださいっ!!」
 囁きに囁きで返すと、声の主‥‥竜子は慎重にクラリッサの口から手を放した。
「悪かったね。野暮用で席を外してたんだよ。ここに用があるんだろ? 私が見張ってるから、今のうちに」
「すいません‥‥。助かります」
 そうしてクラリッサは、資料の山へと向き合ったのだった。
 そして、情報の鉱石から精錬された機密情報を得る。
 クラリッサによって記録された資料。程なく、これらは対策本部に待機していた馳河三郎(ja1487)の手に渡り、精査された。
 最初は多量の情報に喜んでいた三郎だったが、解析が進むに従い無口に為った。
「ドンキークエストがアタッカー。特にこの『クラウドキル』が曲者でしょう」
 敵を一気に殲滅する魔法。しかもこの魔法、可能な限りの帯域を使って空きルートを探し、優先順位の高いアクセス権を得るので、参加しているパーティーメンバーのコマンド受付が早くなると言うおまけ付だ。簡単に説明すれば、戦士が剣を一回振れる所で3回以上振れる。
「ユーザーが1回コマンドを打ち込むと、3回分以上のアタック通信が行われる。つまり、F5アタックを沢山のユーザーが連発しているのと同じ状況ですか」
 そして、別の箇所に仕掛けられたトロイの木馬が、ネット接続中でドンキークエストをやっていないマシンを介して、ポットでサーバアタックを行う。これでは、回線負荷でメインサーバの周辺はとんでもないことになる。
「アタックされたドンキークエストのサーバが落ちるのは当然として‥‥」
 三郎は唖然となった。サーバがアメリカに設置されており、近くに繋がっているサーバがぼろぼろ出て来た。
 日本の某巨大掲示板のサーバ、民間救急車の確認サーバ、石油メジャーの発注受付サーバ、サンフランシスコ準備銀行業務サーバ、アメリカ陸軍一般業務サーバ、被災地安否確認サーバ‥‥。結構とんでもないサーバ群が並んでいる。恐らく、これが発動するとそれらのサーバは巻き込まれてアクセス不能になる。
「対策される前に、ドンキークエストのユーザーを利用して、ドンキークエストのサーバとドンキーが借りているクラウドの検索エンジンサーバにアクセス過多の負荷を掛け、回線負荷を増大。そして本攻撃は各地に仕掛けられた攻撃ボット。まさかアタックされてるサーバの持ち主自身が、仕掛け人とは思わないでしょう」
 そしてこれらの痕跡は、一定時間の後に各PCから自動抹消される。
 トリガーはドンキークエストの『クラウドキル(殺しの雲)』まさにこれがクラウド、すなわちクラウドコンピューティングのような一極集中を構造にとって命取りになる。

 一極集中のネットシステムは、物理的な帯域浪費に脆い一面を持っている。例えるならば、高速道路も渋滞を起こせば機能しないのだ。
 同時期、ジョーカー側も羅刹教授(ja2260)が解析に没頭していたが、ジョーカー達は内部資料を得ることが叶わなかったため、ドンキークエストのメインサーバに対する、サイバーテロが原因であると言うことまでしか、突き止められなかった。

●闇夜の影

 警備・夜の部。ジャスティス達は完全武装のSWAT隊員の扮装で警戒に当たっている。
「‥‥怪しまれずに入り込めましたね」
 マークは、仲間の手回しのよさに舌を巻く。だが、衝音は
「人員不足とはいえ、一般の人も協力してるのか‥‥。大丈夫なのかな?」
 と、現状把握し心配が嵩む。
「何があったんでしょう。制止命令に従わない者は、無条件に射殺って命令も出ているわ」
 メディカル担当の隊員に扮した南が、事態の深刻さを憂う。
 先行組みは、応援組みと連絡を取りつつ、状況を調べて行く。

「‥‥間違いないっす!! 奴ら、あからさまに怪しいっす!!」
 冴子が、夜の闇を蠢く女の影を発見。光一が釘を刺す。
「静かに。私たちがここにいることがばれればお終いです」
 ショウは肩を竦め
「下手すれば俺たちがテロリスト扱いだ。何か決定的な証拠を掴むんだ」
「わかってるっす。今いるのは‥‥政府の連中で間違いないんすかね?」
 冴子の問いに光一は
「情報に間違いがなければ‥‥。ですが」
 その時ショウが唇に指を立てた。
「しっ! また誰か来たぞ‥‥。ドンキーの奴らか?」

●星空のライヴ

 陽清抜きのモンスターズライヴ。興奮の中、夜は更け行き、
 今、星空をバックにして蓮華の歌が夜に響く。
――――――――――――――――――――――
♪夜の帳(とばり)が 優しく包む
 この月の下で

 愛も夢も 全て抱いて
 今はただ おやすみ
 力尽きて 膝を折っても
 そうさ君は生きてる

 愛と夢を 胸に抱いて
 今はただ おやすみ
 手と手を取って 乗り越えてきた
 誘惑と苦難

 愛と夢を 翼(つばさ)に変えて
 今こそ空へ 飛び立とう

♪月の調べが 優しく照らす
 粉雪の街に

 悩み憂い 捨てて忘れ
 今はただ おやすみ
 心折れて 勇気尽きても
 そうさ君は生きてる

 悩み憂い 全て忘れ
 今はただ おやすみ
 通わせる心 広がる世界
 続いてる望み

 悩み憂い 昨日に置いて
 今こそ海へ 漕ぎ出そう
――――――――――――――――――――――
 陽清のカバー曲を交え進むライヴ。
 そのラストに、Kisaraがソロのアコースティクギターで弾き語りを始めた。
 古き昭和の香り。70年代フォーク。I→viやI→iiiを多用するコード進行。
 共通2音を持つ長調短調が入り混じる流れは、叙情的な深みを持って滑らかに続く。
――――――――――――――――――――――――――――――
♪黄昏に沈む 街の風景
 夜闇は影を 色濃く染める
  乾いた大地 冷たい夜風
  愛なき世界に 希望はあるの?

 場末の酒場 喉を潤す 深紅の液体(ワイン)
 夢さえ忘れて 何処へ行けばいい? 

 涙さえ枯れ果て 体は抜け殻
 温もりを求めて 彷徨ってる
  誰もが絶望に 沈む世界で
  宿命(さだめ)に抗い 生き続けるの

 地に倒れ伏しても また立ちあがって
 明日(あした)も見えない 闇夜の中で
 希望を探すの 希望を探すの

♪闇の中浮かぶ 街の灯火
 星影は見てる 地上の団居(まどい)
  大地は叩く 命の鼓動(リズム)
  夢なき世界も 希望はあるの!

 場末の酒場 喉を潤す 深紅の液体(ワイン)
 全てを失い 何処へ行けばいい?

 夜明け前真闇(まやみ)に 心の翼を
 明けの星見つけて 羽ばたき行こう
  誰もが絶望に 沈む世界で
  宿命(さだめ)に抗い 生き続けるの

 火に焼かれ燃えても 光となーって
 この世に夜など 要らないものと
 希望を創るの 希望を創るの
――――――――――――――――――――――――――――――
 静かに演奏を終えると、辺りはシーンと成っていた。

●ガルバの仕業

 ワシントンDC。ジョーカー達は変身し臨戦態勢で待機中。
「ちっ、やられたか」
 たった今、G=ヒドラのVSホッパーが破壊された。しかしこれはそこで異変が起こっている証拠だ。
「行くぞ」
 彼の声に応じるようにジョーカー達は現場に急ぐ。
 そこで見たものは。
「Σヴァンパイア! ガルバの手の者か!!」
 襲われているSP。
「拙いよ!」
 ショルダーバズーガを打ち込むウォーロイド。爆発は、SP諸共ヴァンパイアを砕いた。
 三鬼衆が送り込んだ駒は、勢力を伸ばしながらホワイトハウスを侵食していたのだ。
「こいつは、国土安全保障局員の一人だ」
 討ち取ったヴァンパイア・スレイヴの顔を確認するダークスター。

「緊急避難とは言え、また派手にやってくれましたね」
 そこへ駆けつけたSWAT隊員が素顔を晒した。
「あーあ。そういうことか」
 思い当たり苦笑するG=ヒドラ。
 ジャスティス達は内堀を固め、自分達は番犬代わりに使われていたのだ。
「なんて事。内部にこんなものを送り込まれては、中央政府が麻痺するのも当たり前だよね」
 首だけになっても噛み付いてきた頭部を躱しつつ、ぼやくアリンナ・ブラントン(ja1874)。
 幸い、彼女が心配した原発にはなんの手も伸びておらず、急遽こちらへ駆けつけたところだった。
 その夜。ホワイトハウスの異変に関わる情報共有で折り合いの付いたジャスティスとジョーカーは、ヴァンパイア駆逐の戦いで皆結構な傷を負ったが、なんとかクリーンな状態にすることが出来た。
 しかし、何故ガルバはドンキーの行動を助けるような事をしたのだろう。

●キーワード

「やっぱ『イリス』って寝言がキーワードだな‥‥。いろいろ調べてみねぇと‥‥」
 眠り病‥‥目覚めぬ眠りに就いたランを見下ろし、霞沢賢作(ja1793)は呟いた。
 その呟きを耳にし、不安そうな表情を浮かべたのはララ・シュタインだった。
「あの‥‥。本当に大丈夫でしょうか? ランにもし何かあったら‥‥」
「ワシの発明が信用できんかのぅ?大丈夫じゃよ。夢の記録をとらせてもらうだけじゃい」
 岸田・博士(ja1504)はそんなララを安心させるように、宥めるように頷いてやった。
「患者から話をきいてみたが‥‥。手がかりなしだ。何も覚えていないと」
 と、ユキノシタ・マサカズ(ja0136)が小さく溜め息をつきながら入ってきた。
「やはり眠っている状態の患者を調べるしかないようだな‥‥。他に何か情報は?」
「患者に付き添っていた人の話だと‥‥。寝言で『イリス』だの『結晶』だのをつぶやいていると」
 成る程、霞沢賢一(ja1794)はマサカズに応えると、視線をララへと向けた。
「どうですか? ランちゃんのほうは‥‥。って、赤ちゃんが話せるわけないか」
「ううん。でもなんだか苦しそうで‥‥。うなされてるみたい‥‥」
「では、装置をとりつけるぞい。ララさんはランちゃんの側にいてあげるんじゃ」
 岸田はララの背を一つ優しく叩いてから、ランへと装置を取り付け。
「っと、よければ俺も実験体として使ってくれ。ちゃんと言葉として聞きとれる奴がいたほうがいいだろ」
「‥‥わかった。でも危険だと感じたらすぐに起こすからな」
 そして、申し出たマサカズに、賢一は表情を引き締めるのであった。

「万一に備えて医療品は揃えておいた。万全の体制だ」
「こっちは問題ねぇ間はデータベースを調べておくぜぇ。まだ調べられることがあるかも知れねぇし」
 賢一が甥、賢作の言葉に首肯した時、だった。
「‥‥きおったぞ!!反応ありじゃ!!」
 岸田の緊迫した声が響いた。
「‥‥ラン!? どうしたの!? しっかりして!!」
「ぐ‥‥。うぅ‥‥!!」
 続いてララの悲鳴と、目をつぶったまま苦悶の表情を浮かべるマサカズの、苦しげな声。
「上手く行けば今マサカズ君はラン嬢と同じ夢の中にいるはずだが‥‥。長くは続けられないな‥‥」
 賢一は険しい表情で唇を噛みしめた。
 そうしている間にも、二人の状態は刻一刻と悪化していく。
「ラン!! どうしたの!! そんなに泣いて‥‥。何が怖いの!?」
「危険じゃな‥‥。1度2人を起こすんじゃ!!」
 数値を見ていた岸田は言って、装置を止めた。

「だ‥‥。大丈夫か? 随分うなされていたが‥‥」
「わからねぇ‥‥。だが、酷く恐ろしいものを見ていた気がするぜぇ‥‥」
 賢作の問いにマサカズは緩く、頭を振った。
 夢の中、何を見ていたのかハッキリとは憶えていない。
 ただ憶えているのはそれが、酷く恐ろしかったという、曖昧で強烈な印象。
「ララさん、ランちゃん。すまんの‥‥。だがおかげでデータはとれたわい」
「いえ‥‥。この子が少しでも世界の役にたてるなら‥‥」
 申し訳なさそうな岸田に、ララは首を振った。
 その手の平で、ランの髪を優しく撫でながら。
「念のため治療はしておきます。こちらへ‥‥」
 そして、マサカズを促す賢一の背を見つめながら。
「ドンキーめぇ‥‥。いつまでもおめぇらの好き勝手にはさせねぇぜ‥‥!!」
 賢作は知らず、拳を握りしめていた。

 その頃。
「すいません。私、例の件でお伺いしたものですが‥‥」
「研究所の方ですね?どうぞ」
 看護士にアッサリと案内され、破軍魔夜(ja1332)は気付かれぬよう口の端を微かに釣り上げた。
(どうやらELOのほうで話もしておいてくれたようですね。おかげですんなり入れましたよ)
「こちらが患者の方々です」
 ベッドに並んだ患者達。
 指し示す看護士の顔に、痛ましげな色が浮かぶ。
 自らも似たような表情を作りながら、魔夜は尋ねた。
「確認したいのですが。彼ら、寝ている間に変わった寝言を言っていませんか?」
「寝言ですか? 付き添いの方によれば‥‥。イリスだの‥‥。結晶だの‥‥」
「‥‥わかりました。では‥‥。患者の方々が眠っているときの脳波を調べたいと思います。みなさんに説明お願いできますか?」
 魔夜の要請に、看護士が否を唱える事はなかった。

 調査は進む。
「‥‥今のところ脳波は安定していますね」
 呟く魔夜の背を、看護士の鋭い声音が打った。
「‥‥こちらの患者、反応ありです!!」
 と同時に、魔夜の眼下の患者にも変化が現れる。
「こちらも反応あり‥‥。同じ寝言を言っているときに同じ高さまで脳波が動く‥‥。となれば‥‥」
 魔夜は思考を巡らせながら、その様子を冷静に観察し続けた。
 とはいえ、それは暫くすると始まった時と同じように唐突に、終わった。
「‥‥落ち着きました。今は熟睡しています」
「ありがとうございます。データはとれました。患者が目を覚ました後は安定剤を」
 看護士に指示してから、魔夜はやはり胸中でだけ呟いた。
(さて。結果をELOに送りますか。後はアカツキさんの件‥‥。それとジャスティスですね)

 このデータを元に特徴有る脳波パターンの時の寝言等を記録する装置を発明し、魔夜は有志と共に自らも被験者となる。
 そして、ある日。被験者の一人松戸旦求(ja1103)が夢の中の出来事を意図的に寝言として発することに成功した。
「‥‥アー‥‥アー‥‥レク‥‥アレク。イー‥‥キー‥‥キマ‥‥チョッ‥‥チョオウ‥‥キィーヤォク」
 謎の言葉だ。恐らく呂律が回ってない。
「アレクセイ‥‥さん? チョリソー」
 録音を調べた魔夜は、何かを思い出しかける。そうだ。自分は夢の中で一大事に関わっていたのだ。
「‥‥アレクセイさん・長老・記憶」
 ふっと真白の脳裏に浮かぶ三つの言葉。だが、それが何であるのかは、良く判らなかった。
 同じ日、ほぼ同じ時刻、看病で疲れたシュリ(ja1100)が、うたた寝していたところ、
「サティアッ!!」
 突然飛び起きて泣き出して、
「イリスが連れ去った。陽月を‥‥サティアを取戻さなければ。少年はサティア達。老人はアレクセイ様たち」
 と、呟いているのを、声に飛び起きた真白が耳にした。
「そうだ。そうだよ。イリスが連れてったんだ」
 口にすると急激に失われてゆく記憶。だが、発したこれらの言葉は記録された。

●熊少年を探せ

 林の迫る農道。人気も無い時間なので、変身し臨戦態勢のジョーカー達。
 クイーンロイド(ja2322)の傍らには、トラック1台分の食料を母衣のように担うガニガニ(jz0120)の姿。
 獣華機娘(ja2303)は目撃情報を記した地図を広げ
「このあたりが例の熊少年の目撃場所ですよ」
 と、続けて慎重な計画を述べるが
「是非とも捕まえて妾のペットにしたいのぉ〜!! ガニガニちゃんも協力頼むぞい!!」
「ガニガニに出来ることだったらなんでもするガニ!! まずは何をするガニ?」
 無駄にテンション高いクイーンロイドと、何しに来ているのかも判ってないガニガニが、盛んに気勢を上げている。

「落ち着けよ ガニガニちゃんは 気が早い〜!!」
 口では制するジャベリガン(ja2256)だが‥‥。
「あははは」
 獣華機娘は乾いた笑い。どこからどう見ても、暴れる気満々。
 邪魔する者はぶっとばすぞ〜。涙が出るほどヤリたいのよ〜。
 と、心の声が洩れている。
 そんな浮かれ調子何するものぞ。ワルモン大佐(ja0999)は自ら丹精した、耳が大きいピンクの縫ぐるみにしか見えない物を取り出した。なぜかそいつにはモザイクが掛っている。
「我輩の発明した『ガキンチョ・ネ●リン』で眠らせて捕獲できればいいが。熊少年を見つけないことにはなんともできん」
 するとクイーンロイドは、ガニガニに背負わせたでっかい荷物を指差して
「犬やら鶏やらを捕食してるとなれば相当な食いしん坊のはずじゃ。ここはやはり餌でおびき寄せるのがいいの」
「ではさっそく仕掛けるガニ!!」
 降ろす準備をするガニガニ。
「ジャスティスに警戒しておきますよ。奴らも熊少年を狙っているとのことですし」
 獣華機娘が里側を警戒。
「ジャスティスが やってきたら 任せろよ!! といっているまに 熊少年!! タリホー ヤリホー ヤラナイカ〜」
 林側を警戒するジャベリガンが、ダーゲット発見。この寒いのに、まじスッポンポンの男の子。
「よし!! 捕まえるガニ!!」
 ガニガニが飛び掛って、突っ伏した。うん。見事に荷物の下敷きだ。
「復元力が殆どない事を忘れてたガニ」
 荷物が重すぎて、とてつもないトップヘビーになっていた。
「ガニガニちゃん。今助けるから」
 クイーンロイドが駆け寄った。
 ワルモン大佐は肩を竦め
「‥‥逃げられたか。すばしっこい奴だな」
「今のは、そう言う問題では無いように思いますが‥‥」
 いつの間にかお食事タイムの者を見やる獣華機娘。
「もう結構、もう結構。満腹じゃぞえ。やはりおびき寄せる策がよさそうじゃの。隠れてしばし待つのじゃ」
「助かったガニ。軽くなったガニ」
 荷の重さを半減し、ガニガニを救出したクイーンロイド。獣華機娘は笑みを浮かべ、
「あそこの草むらに隠れましょう。あそこだったら目立たないです」

 さて、熊少年を探すジョーカーがもう一派。
「おじ様、地元の人から聞き込みしてきました!! このあたりで間違いないそうです!!」
 フラウ(ja1801)はJ・J(ja1439)に報告する。月刊アトランのいかがわしい記事とて、火の無いところに煙は立たぬ。
「ありがとう。探知機もこのあたりに反応している」
 言いつつJ・Jは感心する。
(なるほど。姑息だが有効だ。事件の不始末を揉み消す手段としては有効だな)
 実際いつぞやの病院騒ぎも、月刊アトランのトンデモ記事のおかげで、単なる噂や都市伝説になっていた。

 探知機を覗き込むウェブスクリーマー(ja2107)は
「急ぎましょう。よからぬことを企んでいる他のジョーカー。ジャスティスもいます」
 と皆を促し
「動物さんからもお話を聞いてみるわね。襲われたりしていないか」
 エミネ・プルーフ(ja1573)がにっこりとその能力を展開した。
 ゆっくりと移動しつつ、小一時間。
「‥‥どうだ。何かわかったか?」
 エミネの口元に浮かぶ笑みに、J・Jは尋ねる。
「‥‥あっちで襲われたと」
 エミネは情報を掴んだ。
「お肉を好むみたいですね。持っていれば向こうからやってきてくれるでしょうか?」
 フラウの問いにウェブスクリーマーは答えた。
「一応仕掛けもしておきましょう。警戒される可能性があります」

●冬の山林に熊少年を見た

 月刊アトラン主催の熊少年捜索隊。こっそりジャスティスだけを募った積もりだった。
 しかし、こう言う面白い企画は洩れるもの。予想外に集まった一般人を前に、黒岩薫(ja1019)は大童。
 万が一にも事故無きよう、手回しに忙殺される。
「‥‥以上のことを踏まえて、ご協力お願いします」
 まるで卒業式の来賓のような長い話だったので、涼村シンジ(ja0931)は
「間違っても1人で捕獲しようとしないでください。見つけたらまず皆に連絡を」
 と、一番重要なことだけ念を押す。
「わかってますよ!! しかし楽しみだなぁ‥‥どんな姿をしてるのか‥‥」
 熱心な愛読者の青年に
「熊に育てられた少年って言うぐらいだしぃ!! きっと‥‥」
 スケッチブックを携えた女子高生。さっきから見ていると青年の連れらしい。
「協力が必要とは言え。やはり一般人を参加させるのは危険じゃないのか?」
 無理やり酢でも飲まされたような顔の大十字生(ja2151)が、横を見る。
「がお‥‥大丈夫。みんな、守る。もちろん、少年も」
 隣のファナ・コウサカ(ja1764)が頼もしく請け負った。

 少し後れて来た読者有志に説明を繰り返した後、黒岩は班のリーダーに据えたジャスティスの面々を手招きすると
「本物の熊の目撃情報も寄せられている。皆から目を離さないように消をつけろ」
 と念を押す。シンジは頷き
「小型ロボに周辺を捜索させている。熊が出たらすぐに場を離れるように指示するさ」
「いざという時は前に立つしかないな。一般人にケガを追わせるわけにはいかない」
 生もこの間の勇み足を省(かえりみ)て実に頼もしい。

 ガササ。ファナが草を分けて
「‥‥こっち。小さな足跡、ある」
 足跡を見つけた。
 それは鹿に非ず、野犬に非ず、猿に非ず。
「ホントだ!! この先にいるのか!?」
 青年が寄ってきた。
「きっとそうよ!! 早く行きましょう!!」
 駆け出す女子高生。
「待ってください!!」
 黒岩は勝手に飛び出す二人に呼びかけつつ、
「‥‥早く追うぞ!!」
 ジャスティス達を促した。

 程なく、ファナの先導でターゲット発見。
「いたぞ!! ‥‥あれが例の少年か」
 シンジは冗談みたいな現実にびっくり。幼稚園児くらいの裸の子がいる。
 横手からカメラのフラッシュの連射。
「不用意に近づかないでください!!」
 黒岩が注意したが遅かった。
 当に猿(ましら)の如し。青年に襲い掛かる熊少年。
「危ない! ‥‥ぐっ!!」
 飛びついて伏せる生の肩に鈍い衝撃。
「す‥‥すいません!! 大丈夫ですか!?」
「フラッシュは駄目だ。攻撃されたと勘違いする」
「少年。怖がった。急に近づくの‥‥よくない」
 ファナも
「て‥‥手当てします!!」
 責任を感じ、半ばオロオロする女子高生に、
「大丈夫。少し打った程度だ」
 と服のホコリを払う生。
「まだ遠くには行ってないはずだ。食料でおびき寄せてみよう」
 シンジは、探査にロボットを放ちつつ準備を始めた。

●分かたれし者

「‥‥お。来たようじゃの。やはり食べ物に弱いみたいじゃな」
 クイーンロイドが貪り食う熊少年の食べっぷりを、愛しき目で眺めている。
「それじゃ、みんなで飛び掛るガニ!!」
 今度はガニガニ、荷が無いのを忘れて勢い余る。
「落ち着けよ!! 同じ過ち ごめんだぜ!!」
 ジャベリガンが手で顔を覆った。だが獣華機娘は澄ましたもの。
「大丈夫ですよ!! 大佐の発明品があります」
 はたして、
「しめしめ。縫ぐるみに興味をしめしたな。‥‥今だ!!」
 ワルモン大佐はスイッチポン。
『陰陽吽欠蘇婆訶!!』
 縫いぐるみから発せられる睡魔の響き。
「お!! 眠りおったぞ!! 成功じゃ!!」
「やったガニ!」
 早々と、祝杯のブロン液をガニガニに振舞うクイーンロイド。
「今のうちに捕縛しておきます」
 ローブを取り出す獣華機娘。
「で、どうするガニ? さっそく持ち帰るガニ?」
 ほくほく顔のガニガニ。
「そうするか!! 言いたいものだが 何してる?」
 ジャベリガンはワルモン大佐の不審な動きに目を止めた。
「‥‥まずは確かめたいことがある。この小僧がガルバコピーなのか‥‥」
 サンプルを取り出し近づける。最初に異変に気が着いたのはクイーンロイド
「お‥‥。おぉ!! 細胞が共鳴しておるぞい!!」
 そして次の瞬間。
「た‥‥。大変です!! 細胞サンプルが少年に取り込まれています!!」
 獣華機娘の目の前で、少し成長する熊少年。そしてかっと目を開き。ジョーカー達が対応する間も無く、残像を残して消え去った。
「目を覚ましたガニ!! ‥‥逃げられたガニ!!」
 騒ぐガニガニ。
 額に手をやるワルモン大佐は、
「貴重なサンプルが‥‥」
 だが、どうやらあの少年。ガルバのコピーに間違いなさそうだ。

●ガルバの別荘

「こ‥‥ここがガルバ殿の屋敷‥‥」
 何の力も持たぬはずのただの建物を前にウツロ(ja2198)は威圧されていた。
「どうした? 今更、怖気づいたのか?」
「き、緊張してるのは別に怖いからじゃないぞっ! ‥‥気になる事の答えを知ってるだろう人が目の前の屋敷に住んでいるんだ。少しくらい緊張してもおかしくない‥‥よね?」
 マリル・イェーガー(ja1724)にウツロはやはり落ち着かない様子でそう言った。
「‥‥言い切れない威圧感のようなものはありますが。あ、あそこにいるのは‥‥!?」
 再び視線を屋敷に戻した黒乃揚羽(ja2138)はそこにいた者に対し、怪訝な表情を浮かべた。
「失礼。ガルバ殿との謁見を。すでに話は通してあるが‥‥」
 そこで屋敷の執事と対話しているのは房陰・嘉和(ja1023)。
「ジャスティス達か!? ガルバ殿に何のようだ!?」
 先ほどまでの緊張はどこへ行ったのか、即座に臨戦態勢をとり、ウツロは獲物を突きつける。
「‥‥ジョーカーの族(やから)か。心配めさるな。争いに来たわけではあり申さぬ。いくつか問いたきことがありますれば」
 それに対し、嘉和は敵意を欠片も見せず、そう告げた。
「‥‥だろうな。強行突破なればわざわざ執事を通したりはすまい」
 マリルはそう言いながらウツロを少しだけ下がらせる。敵対する気があるのなら単独行動を取るはずもない。
「‥‥だといいのですが」
 そう呟き、揚羽は様々な不安を抱きながら屋敷を見上げた。

「よくきたな。すでに話は伺っているが‥‥」
 執事に通された先ではすでにガルバが待ちわびていた。
「はい。馳せ参じた駒2名、別行動2名、御自由にお使い頂きたく」
「何も持たぬ私に目的意識を与え、原動力となって下さったアーゲント様への、延いてはガルバ様への御恩返しです」
 ウツロと揚羽の言葉を聞き、ガルバは見定めるように一同を見回してから口を開く。
「よかろう。私の手足となって動いてくれ。特に黒乃、といったか。お前は美しい。いろいろとお相手願いたいものだ」
「あ‥‥ありがとうございます‥‥」
 その言葉に揚羽は思わず顔を伏せる。
「そ‥‥その前に、伺いたいことが‥‥」
「待て。先に私が聞きたいことがある。例の肉塊のことだ」
「突然に尋ね、知恵を貸せとは、厚顔無恥は百も承知の上でありますが、ヘレルやクルーテに与する側に抗する為、教えて頂けぬでありましょうか? 拙者もいくつか尋ねたき儀がござりますれば」
「そう急くな。私は逃げも隠れもせん。先の恩賞でもあるからな」
 ウツロとマリル、嘉和が矢継ぎ早に質問しようとするのを手で制し、ガルバは質問に答える。
 3時間余に上る質疑の後、WC達が記録したメモは次のようになる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Q:クルーテは、何者なのか?
A:ヘレルの使徒だ。

Q:ヘレルは、摩訶混沌と関係があるのか?
A:お前達が知る必要は無い。

Q:アレクセイ殿、アカツキ殿が依代となる可能性は消せないだろうか?
A:成るようになるだろう。

Q:今起きている眠り病の原因はなんだ。
A:お前達が呆気なく勝利した因果律の歪みだ。思ったよりもお前達が強過ぎたせいだな。

Q:それはどう言うことだ?
A:力に智慧が追いついていないのか。情けない。

Q:イリスと言う存在は、何であるのか?
Q:ガルバから抉り取られた肉塊に手足が生えて逃げ出した。あれは何だ?
A:その二つにはまとめて答えるとしよう。イリスとあれは同質のものだ

Q:それはどういうことだ?
A:イリスは時を満たす為に生んだ私の影だ。
  尤も、今は私とは別物だ。お前達が勝手に作った怪物同様にな。

Q:今回の災害や異変は、ヘレルの力が関与しているのか?
A:まだ可愛いものだ。あんなものではないぞ。

Q:イグザリオンの修復を行ったのは、ガルバの意向であるのか?
A:そうだ。相応しき者に任せる仕事としてな。

Q:ジャッカルが、ヘレルの長子を討つ使命を帯びた種の者である事を知って、取引、協力していたのか?
A:なるほど。お前達にはそう見えたのか。

Q:お願いします。アレクセイ殿、アカツキ殿が依代となる可能性は消せませんか?
A:おい。これで15回目だぞ。まあいい。
  ヘレルの長子の依代になるには、器として相応しき強き体が要る。
  キマイランズの族長とその子ら。あるいはそれを超える器で無ければ顕現の途中で砕け散る。
  だが奴は滅びず、虚無の力がこの世界を壊して行くのだ。私にとっては、どうでも良いことだがな。
  また時が満ちるのを待てばよい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●発見、熊少年

 無残に散らばるロボットの破片。
「‥‥小型Dロボ[ホーク]と小型Cロボ[バード]が喰われた〜」
 エグエグなシンジ。はっきりと歯型が残る残骸は、恐らく獲物と間違えたのであろう。
「金属を噛み切る口か」
 生は容易ならざる殺傷能力に気を引き締める。恐ろしさは熊以上だ。
「でも、子供の口。人間の歯。シンジ、たまにはホントの事書く」
 ファナの一言で、シンジはさらにエグエグ。
「しっ‥‥静かに!! 姿が見えた」
 生が身を屈めながら言った。
「接近してきたところで接触しよう。逃げられないよう気をつけて」
 黒岩の指示に一般人達も従うが、
「‥‥あれ? なんだか‥‥怖い顔してないか?」
 双眼鏡を覗いていた学生が言った。
「こ‥‥こっちに向かって来るわよ!!」
 アラフォーの奥様が恐怖で凍る。
 シンジが叫んだ。
「危ない!! ファナ!! よけろ!!」
 だが、ファナはたじろがず。厚く巻いた布越しとは言え熊少年の牙を腕に受け
「ぐ‥‥。うぅ‥‥大丈夫。怖くない、怖くない‥‥」
 その反応に、噛むのを緩めた熊少年。
「ファナに‥‥懐いているのか?」
 身体をよじ登って顔を舐める様は、大十字生の目には、まるで仔犬のように見えた。
 ほっと息を撫で下ろしつつ、黒岩が言う。
「‥‥どうやら大丈夫そうだな。よし、このまま連れて帰ろう。ファナ、頼むぞ」
 どうみてもこの子は人間だ。保護して、しかるべき教育を。黒岩が彼の将来の計画を立てたとしても、責める者はおるまい。
「可愛いわね‥‥。何か食べてくれるかしら?」
 さらさらとスケッチブックに鉛筆を走らせる女子高生。
「鞄の中に何か他に食料はないんですか? ええっと‥‥」
 連れの青年が食料の入ったリュックを漁る。いい物があった。お菓子かな?
「‥‥あ!? それはダメだ!! 万一の時のため持ってきた‥‥」
 シンジの反応が少し遅れた。
「え‥‥うわっ!?」
 お菓子の袋と思ったのは、レトルトのΩカレー。開封の弾みで、噴出した中身の飛沫が、熊少年の目に入ったからたまらない。
「ダメだ、暴れるな‥‥。きゃいっ!!」
 ファナの手からスルリと抜けて‥‥
「Σああっ。万一に備えてもってきたカレーでこんなことになってしまうとは‥‥」
 呆然とするシンジ。
「まだ遠くにはいってないはず‥‥追うぞ!!」
 駆け出す生。
「あっちの方角に逃げた! 急いで!!」
 慌てる黒岩。
「がお、あの子、絶対、助ける‥‥!!」
 ファナの声が山野にこだました。

●命名マリス

 目に付き易い所に食料を広げ、木に化け、岩に化け。ジョーカー達は身を潜める。
「‥‥なかなか現れませんね」
「やっぱり警戒されてるんですかね‥‥」
 ウェブスクリーマーとフラウが交わした直後。
「きゃぁっ!!」
 フラウの悲鳴が林にこだま。彼女の持っていたお肉が引っ手繰られた。
 J・Jはポーズを作り
「熊少年!? ‥‥まさか直接餌を狙って来るとはな」
 エミネは肉を握り締め、興奮する裸ん坊の子供に
「だ‥‥大丈夫よ!! 私達は貴方の敵じゃない!! 落ち着いて、落ち着いて‥‥」
 その様を見て
「‥‥この子、ケガをしているようですね。誰かにやられたんでしょうか?」
 おや? と気付いたウェブスクリーマー。この頃になると、不意を突かれて驚いたフラウも落ち着き
「手当てしてあげますよ。ちょっとしみるかもですけど‥‥」
 と、綺麗な水で傷口を洗い、薬と包帯。
「とりあえず服をきましょ!! 裸のままじゃ風邪引いちゃうわよ!!」
 エミネが着せてみるが、痛みが和らぐので大人しくしていた包帯とは異なり、
「ああっ!! 破いてしまいましたよ!! 動きにくいとかあるのでしょうか」
 ウェブスクリーマーの目の前で、元の木阿弥。
 フラウはにっこりとして
「服が気に入らなかった可能性もありますよ。こっちの熊さんコートはどうですか? 後お名前を‥‥。そう、『マリス』と言うのはどうですか?」
 ――――――――――
   命名:マリス
 ――――――――――
 どうやら名前を気に入ったらしい。マリスと呼ばれると、目に知性の光を灯した。
 J・Jは
「マリス‥‥悪意か。悪くはない呼び名だ。では行こうか。食事が必要であれば基地で用意するぞ」
 と同行を促し、熊少年マリスを誘った。
 暫く大人しく付いてきたが、不意にまた興奮。
「‥‥ど、どうしたの!? 急に暴れだして!! きゃっ!!」
 エミネの手を振り解き、樹から樹へ。
「‥‥どうやら他の人間に感づいたようですね」
「どうします?追いかけますか?」
 ウェブスクリーマーとフラウはJ・Jに訊ねる。
「あの姿であれば大丈夫だろう。それに探知機もある。今は無理に追わずとも良いだろう。なにしろマリスはこちらを自分の敵ではないと認めたのだからな」
 J・Jは愉快笑い声を上げた。

●甦りしモノ

 陽月との再会の後、海底基地に戻ってきた陽蔓。
 まだ色々と整理が付かなくて、少し塞ぎこんでいた。
「よう」
 と、そんな彼女を訪ねて来たのは房陰嘉和(ja2139)である。
「‥‥こんな所に篭りっきりじゃ、息が詰まるだろ?どうだ?少し話でもしないか?」
「‥‥」
 陽蔓は黙ったまま。嘉和は努めて軽い感じで
「‥‥やっぱ、同世代の女の子とかのほうがいいか? まぁ。気分の害するようなら流してくれてもいいぜ」
 と話しかける。
「アンタの歌、何回か聞かせてもらったことがあるんだ。やっぱ、歌ってる時って生きがいとか。感じるんじゃねぇか?」
 ドタン! 二人の会話を乱す闖入得者。
「‥‥だったらその歌声、2度と出せないようにしてやろーか?」
「‥‥クビシメール!? 何故ここに!?」
 危険人物は通さないはずの陽蔓の部屋。ありえない。こいつだけはありえない。
 クビシメール(ja1364)は危険人物以外の何者でもないのだから。
「アカツキのガキが眠っちまったまま起きねぇからな。聞くところによりゃあそこの姉ちゃんも特異体質みたいじゃねーか!?」
 近づくクビシメール。陽蔓は目を見開いて
「‥‥!? そんな‥‥私、知りません!?」
「ま、本人が気が付いてないってのもあるわなぁ‥‥。オラァ!!」
 クビシメールはサイドワインダーウィップを振るう。
「やめろ!! 勝手なマネをするな!!」
 嘉和の制止よりも早く
「ハァンギリィ! おらぁ、シャキっとしろよ? でねーと二度と綺麗な歌が唄えねーように、喉潰しちまうぞぉ!? それとも、喉をかっきってやるかぁ!!」
 首に固く巻きつくウィップ。頚動脈を絞められ、意識が遠のく陽蔓。
「止めろ!」
 嘉和は八方手裏剣[麻痺]を打とうとした時だった。
 突然陽蔓の雰囲気が変わった。
「‥‥無駄だ。そんな獲物で私はやられんぞ」
 手品のよう解けるウィップに尻餅をつくクビシメール。
「‥‥なんだ? 雰囲気が‥‥かわった?」
 それは嘉和の目にも明らかだった。
 クビシメールはやれやれと言う感じで起き上がり、
「‥‥けっ。まさか、あんたが出て来るとはな。面白れぇ〜」
「娘が助けを求めたのでな。いい腕だ小僧。血脈を圧していたが、喉には全く力が掛っていない。ものの10秒で落ちるが、直ぐに緩めれば命に別状はない。それで居て、娘に死を覚悟させる恐怖を与えた」
 淡々と語る陽蔓の声。
「誰だあんたは!」
 身構える嘉和にクビシメールは武者震いしながらこう告げた。
「判らねぇのか? あいつがジャッカルだ!」


 丁度その頃。涼村ユイ(ja1082)は世界的な津波の元を目指していた。
「予言どおりに地震が起きた。というのはやはりおかしいのよね、裏があると考えるべきなんだけど‥‥。あるいは予め海底の調査に乗り出して地震を予測したとか? 出来なくはない‥‥わよね?」
 G型円盤のセンサーは告げる。この辺りの海底が隆起しつつある。
「まさか本当に‥‥。いや、そんなわけないと思いたいんだけど‥‥」
 ここまで隆起したスピードから計算すると、1ヶ月から2ヶ月もあれば、大きな島が出現するはずだ。
 太平洋の公海上に出来た島は、所謂無主の地だ。発見、調査を行い。そして占有すれば領海と排他的経済水域込みで、行った国の新しい領土となる。
「これって、下手をすると国際紛争の種にもなりそうね」
 言いつつ。そんなもので済めばいいけれど。と、ユイは思う。
 彼女の目前に映し出される映像。古代の遺跡と岩山の横にある洞窟。
「これは、調べてみる必要がありそうね」
 ユイは思わず、爪を噛んでいた。

 やや遅れて、ELOからその情報を知らされたアレクセイは、
「調査の必要がある。私も行こう」
 と、腰を上げた。


 さて、その頃になると、リム達が持ち帰ったディスクのチェックが終了した。
 中身はドンキーの教団内広報パンフレットの印刷データだ。
 全世界の信者たちに、明日にでも届けられる檄。それにはこう記されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 主の日は、盗人のように突然来ます。

 天の父は私たちドンキーの救済を確約されました。
 そして、私たちを通じて、より多くの人々を天の御国(みくに)に
 誘(いざな)っておられます。

 あなた方は、父の元に行き、周りが主の民だけになったとき
 もう働かないのですか?
 いいえ違います。天の父は世の始まりから、今この時も働いて居られます。
 あなた方は、力(つと)めて父の栄光を示すために働きなさい。

 天の父は、私たちの手が届く人々を全て救うと約束されました。
 私たちは父の執事として、多くのミナを与えられ、タラントを預けられています。
 天の国で、悪いしもべだ。と言われぬよう頑張りましょう。

 間も無く、大きな島が生まれます。
 それが主の日が来るあかしです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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■プレイング(MVP)


■ja0289 K=9/漆原祐
ク・挑戦:【ネクサス】
show・youの提案に応じ、陽月とララ親子を連れてジョーカーとの交渉に赴く。
会場は「SS型円盤が到達可能かつS型円盤の転送装置が使用可能な場所」で「一般人の立入が出来ない場所」を選び、仲間達とshow・youにだけ専用回線で指定する。

当然向こうも狙いがあってこの提案を出したのだろう。だが、取引を行う以上は彼も約束は守るだろう。
警戒すべきは彼でなく、他のジョーカーやドンキー、ガルバの介入だ。
VSホッパーで周囲を警戒し、有事の際はすぐに変身してみんなを庇える様にする。

そしてもう一つ。ドンキーが陽蔓に何か細工を施した事も考えられる。
陽蔓を受け入れる際は、彼女の動きにも警戒する。
いざとなったら、電磁トンファーで気絶させる。

交渉が終わったら、show・youに礼を言う。
交換条件とはいえ、彼のおかげで陽月と陽蔓が再会する事が出来たのだから。
何としてでも、陽蔓を元に戻さないとな。



■ja1056 キルブレード/寒来刃夜斗
ク−挑戦 I探索
修行を続けるには実戦が一番だが、ガルバもドンキーも男らしくなく、ネチネチとした行動ばかりだから、戦闘できる場がない。このままでは腕が錆つきそうだから、黒薔薇につきあって、イグザリオンのブラックボックスを回収に行くぜ。

ゼロの亡霊でも出てくると面白そうなんだがな。幽霊であっても、ジャッカル陣営最強と言われたあいつに修行の相手をしてもらえれば、さらに強くなれそうな気がするんだが。

一応、メギドプレード・ダークも持っていき、何か手に負えそうにないものが出てきたら、それでこの剣の使い方の実験をしてみることにするぜ。6分しか使えないから、それまでは兜の魔剣などで戦ってメギドの剣の使いどころには気をつけるがな。

雑魚な銀河刑事などが出てきたら、通路に誘いこんで、剣神の進軍でも叩きこむぜ。ジャスティスなどが出てきても、せいぜい俺の修行につきあってもらうことにするとするか。



■ja1600 Mr.ビッグロック/マーク・ネルソン
ア:我が祖国の異変を探りに、仲間と同行。

「政府や軍が機能停止している間の、ドンキーの慈善活動‥‥何もかも巧く出来すぎていますね」
過去にも、天変地異を起こすだけの科学力や魔力を持ったJoker組織は存在したという話です‥‥
ドンキーの自作自演を疑うのも的外れではないでしょう。

ともあれ、まずは調査。通信傍受を避けるため、ポケットの中の[離音]には
今回も大いに活躍してもらいますよ。
現地のJustice秘匿機関やヒーローチーム‥‥日本に来る前に知己を得たWCの友人知人と
可能な限り連絡をとってみて、経過・現状についての情報を集めます。
有事には変身し、戦闘向きではない同行者の護衛や、味方のカウンター攻撃を
補佐するための連携防御役。

今回の混乱を実行している人物達ですが、ファントムロードならぬドンキーの洗脳被害者という可能性もあります。
機会があれば、[抗ドンキー]通信機も試してみます。

全ての友に、グッドラックを。



■ja1724 エウメニデス/マリル・イェーガー
【エA】挑戦

ドリームパラダイスでの出来事を覚えているだろうか?

功労者の質問にガルバが答えるという奴だ
だがあの時、選ばれたは良いがマリルが質問すべきは既に消化されていた
質問をしていない。つまりあの時得た権利はまだ残っている

屁理屈でも良いだろう。本人に訊くのが一番早い

ガルバから抉り取られた肉塊に手足が生えて逃げ出した。あれは何だ?

分身、息子、肉塊から生じた仔がガルバにとって何者に当たるのか知りたい
何であっても渡しはしないが
今は手を離れているが、あれは我らの仔。我らの願いを叶える可能性を持つ贄だ
許せぬ事なら邪魔しに来ると良い。その方が愉しめる

最後に、アーゲントがこの場に居れば帰る前に一瞥して行こう
目の前でガルバを傷付けられた事実を思い出し顔色に表れていれば面白いと思っただけで、他意は無い
黒乃は撫でさせろ(こっちはただの嫌がらせ)

無事に帰して貰えないようならタイムストップの疑似瞬間移動で撤収するぞ



■ja1764 パラダリス/ファナ・コウサカ
ウ:熊少年

がお、世界中、大変なことになってる‥‥でも、何だか、熊少年、放っておけない。
幼い頃のファナに、似てるから?‥‥それより、もっと大事なこと、ある気がする。
何だか、胸騒ぎする‥‥。

アトランの皆と一緒に、熊少年の目撃・痕跡情報もとに‥‥潜んでいるエリア、絞り込む。
現地に向かったら、猫耳で動物達の声、聞いて情報集める。それから要所要所で、
超五感(視覚b、聴力、嗅覚)研ぎ澄ませて‥‥少年の居所、探す。
もちろん、ジャングル育ちの、経験も生かして、獣道や樹々、食べ残しや糞まで、色々と手がかり探す。
星獣のプラティノも、手伝ってくれると、うれしい。

熊少年、見つけたら、試しにエンパシー、使いながら呼びかける。
「がお、ファナたち、トモダチ、なりに来た‥‥一人ぼっち、よくない‥‥」
なるべく手荒なこと、したくない。逃げるなら捕まえる、でも出来れば、自分から一緒に来て欲しい‥‥。

Joker、狙って来たら、変身‥‥少年、守る!



■ja1952 スティンガードラゴネス/プリンセス・G
「オB」
「とある富豪令嬢のボランティア」という触れ込みで、被災地の救援活動を装いながら
現地住民やドンキー信者の様子を伺い、得られた情報はDS団本部に持ち帰る。

口調は努めて「わたくし、〜です、〜ます、〜でしょうか」
動き易い服装ながらセレブらしく優雅に、にこやかに振舞う。
カリスマ性では教祖ノーマとやらにも負けはせぬぞ‥‥?
(しかし、地球人に移住を拒否されて滅んだ世界の生き残りが‥‥滅びの予兆に怯えている人間どもを
助ける演技とは‥‥皮肉なものよのう)
内心はおくびにも出さず、それでいて情報収集は抜け目無く。
子飼いの戦闘員達には目立たぬよう変装させ、あちこちの物陰からドンキー信者や司祭どもの様子を観察させておこう。

この機に対して、ガルバめの手駒が動きだすやも知れぬ‥‥それに対しても気を配っておくか。
(ジャッカルは悪と言えど秩序、ポーライは混沌‥‥それではドンキーは?妾には、両面を備えているように思えるが‥‥?)



■ja2035 オムライザー/オムレッツ
【キA】
(口調補足)
変形前‥‥一人称:ボコ、語尾:〜レツ、〜なのレツ、〜するレツ
変形後‥‥一人称:僕、語尾:〜です、〜なのです、〜するです

ララママ(jz0037)と、ランの護衛・看病をするのレツ。
ボコはロボット、エネルギーとメンテさえきちんとしてれば
寝ずの番も平気レツ♪
(ちなみにスリープモードで「眠る」こと自体は可能‥‥)

陽蔓がこっちに会いに来るということで、ララママ&ランも
連れて行かないとダメレツか?
それならランは風邪をひかないように温かい格好させて、
ララママと交代で抱っこして連れて行くレツ。
(チーム「ネクサス」に同行)

陽蔓の友達Jokerとはケンカしない約束、守るレツ。
現地での会話や音声は、後のためにボコのAIに記録させてもらうのレツ。
ドンキー信者が襲ってきたら、気絶させて無力化。
もっと手強いのが来たら‥‥母娘や陽蔓を身体で庇いつつ、いざとなったら
カーモードに変形、皆を連れて逃走撤退も考慮するレツ。



■ja2127 ドクトル・ゼピュロス/御仁橋・西二郎
【ク・挑戦】
俺は拠点に残って、アメリカに渡る連中のパスポートやらの手配や情報収集にあたるよ。
WCの連中の中には、戸籍上居ない事になってる奴も居そうだしな‥‥。でも、海を渡るのに密入国する訳にもいくめえ?

あと、希望する奴には現地で活動しやすいよう、秘匿機関のコネを駆使し外務省や警察庁、JAEAから要請され派遣された官民の支援者‥‥。
とか言う感じに出来ないか、防衛技術研究機構や上部秘匿機関のコネを駆使して掛け合ってみるぜ。

何かあっても多数の人を救えるんなら‥‥俺の脂ぎった首ひとつで済むなら大儲けさ。
これでも防衛技術研究機構のボスだしね。辞表とやらの書き方を習っておくか。

まあ、組織や他のJustice連中を信じてるし、奴らは上手くやるさ。

手配が済んだら、またもや組織のコネを駆使して、今回の大地震で被害を受けた、アメリカ国内や他の地域の被害状況を把握。
情報や不足物資等を纏め、各Justiceに秘匿回線で伝達だ。



■ja2323 リム・フェザー/リム・フェザー
【オ・B】

【心情】
自己犠牲精神の増殖
敵の思惑に嵌っているとしても、困ってる人達を見過ごす訳には、いきません
他の場所は向かった皆を信じて、リムはここで、リムだから出来る事を

【行動】
パンフレット等にあるドンキーの連絡先に問い合わせ、ドンキーの慈善事業に参加します
裏にどんな思惑が有ったとしても、皆を助ける、その一点だけは本物だと思うから
現地に居る信者の方の指示に従って活動します

本来なら不眠不休で働けますが、人造人間と知られない為に最低限の休息は取ります
その他の時間は献身的に被災者支援を

もう一つのリムに出来る事。それは壊れるか消去されるまで、データを忘れない事です
慈善事業に携わる傍ら、派遣されたドンキー信者の情報を電脳に記録します
特に医師、軍務経験者
国籍、推定年齢等に偏りが無いかに留意して、整理しますね

彼らと話す機会が有れば『主の日』について尋ねてみます
「こんな事がまた起こるかと思うと、不安で‥‥」



■ja2377 クラリッサ・アイリーン/クラリッサ・アイリーン
選択肢:オ・ドンキー A:教団を直接調べる

行動:ドンキー教団員として、慎重に謎の人物ギヨーム・クルーテとドンキーのつながりについて調べる。

行動補足:
だいぶ教団になじんで来たようですし、ここらで少々危険な調査を行いましょうか。
ガルバから警告があった人物、ギヨーム・クルーテ。今までの調査報告によると相当危険人物のようですが。彼とドンキーのつながりは不明です。
おそらくは教祖様とつながっているのでしょうが、それだけではドンキーを操るには不足のような気がしてなりません。おそらく、息のかかった人間が複数いると思われます。
なので今回は、今までドンキー関連の事件が起こった際、その人物の連動して動いた人物がいないかや、ドンキー内にギヨームの痕跡がないかなどを調べます。
今回は本格的なスパイ活動なので、慎重な上にも慎重に行動します。
ばれそうになったら調査は中止します。
万が一ばれたら4号マシンで逃亡しますね。




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