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同窓会と不思議な箱
担当マスター:畑下はるこ
開始日17/02/27 24:00
タイプ特別イベントシナリオ
難易度易しい
分類放課後
参加人数58

■参加者一覧
リーラ・アリエクト(xa0005
オールージュ・フランコルシャン(xa0064
セグナス・フィゲリック(xa0149
ベリル・ラグザ(xa0210
アーク・レイクウッド(xa0223
シア・ラストラル(xa0411
グラナート・ミストファイア(xa0501
アレックス・エヴァンゲリアス(xa0505
アルストラ・クレイドル(xa0989
イクシア・バラン(xa0991
ソラージュ・ファンセス(xa1674
フォーシャル・ソルディアス(xa1883
セーユ・エイシーア(xa2052
フィザル・モニカ(xa2077
フィルムーン・グリステン(xa2372
マウリ・オズワルド(xa2601
シルト・グレンツェン(xa2837
サラサ・ユラ・トリーティア(xa3326
ロゼッタ・ブランケンハイム(xa4107
シューリア・シーリア(xa4388
ルージア・レンティアット(xa5191
デューク・レイクウッド(xa5483
エドヴァルド・シュルズベリィ(xa5784
ノウリス・ヴァン・スラウス(xa8051
マヤ・スカイイースト(xb0251
サディアス・フェザー(xb2296
ラスティア・インノバドール(xb2367
リース・クラウ(xb2373
ミラベル・エリヴァーガル(xb2520
レミフェア・ドリムス(xb3378
セルヴィア・ノルンフォード(xb3586
ヨルダ・ヤオト(xb4297
カミーユ・ウェーバー(xb6779
フレイル・ライル(xb7283
ロサベル・ガードナー(xb7495
ダリウス・フィゲリック(xb9077
アリーナ・オルックス(xc0035
イゾルデ・キオネ(xc0047
ノヴァ・エリツィン(xc0130
ジェルトルーデ・ルフェーブル(xc0272
ミント・スカイイースト(xc0280
ハクノ・ワンディーランド(xc1010
ツィーガル・スライファー(xc1307
タンドール・フクトー(xc1546
ショウ・ガイスト(xc1838
クール・ハートドライヴ(xc2290
ルイス・フェルタール(xc2294
サジ・フェルタール(xd0302
ギルバ(xd0563
アールガシーダ(xd0740
リエリア(xd1000
ジンライ・ナルカミ(xd1741
プニ・サルタバルタ(xd1752
ファーエル・ランス(xd2067
シャインベリー(xd2189
ティティリア・フォーリンデン(xd3004
リプレ・カークランド(xd3278
トロ(xd3422


●世界の状況
 1017年、2月。
 昨年成立したAOSによって、コモンは種を永らえる可能性を手にした。
 研究者たちは喜び、そして悪用されないように慎重な立ち回りを始めている。
 この頃。
 未来を繋ぐために東奔西走していた学園の卒業生たちも、ようやく落ち着いた日常を取り戻しつつあった。
 そんな折ふと、随分前に届いた手紙の内容を思い出していた。

●ローレックの街
「よく来たわね」
 受付で手続きを済ませた卒業生たちを、ラナ・フィーゲル(xz0012)が出迎える。
 艶やかな長髪、きりりとした表情。
 そこに浮く鋭い眼差しが昔よりも柔和に感じられるのは、卒業生たちが成熟したからか――それとも彼女自身が年を重ねたせいだろうか。
 今、ラナは弓術の教師兼、生活指導教員となっているそうだ。
 どちらかというと生活指導へ重きを置いて、学生の相談に乗ったり、だらしない学生に喝を入れたりと、忙しい毎日を過ごしているとのこと。
「便りは無事届いたのね、おまえが帰って来てくれて、嬉しいわ」
 ゆったりと微笑む彼女の肩から、まっすぐな黒髪が滑り落ちる。

 ――『同窓会のお知らせ』。
 そんな表題の便りが届いたのは随分前のこと。
 愛の日が過ぎた頃に集まってほしい。そんな風に書かれた手紙に従い、卒業生たちは古巣であるローレック・ルミナ・スクールにやってきたというわけだ。
「わざわざお前たちを呼び付けたのには理由があるの」
 アレが届いたから――と、ラナは卒業生たちをグラウンドへ招く。
 体育や武術を学んだ懐かしい広場。卒業生たちはそこに置かれた物体を見た。
 巨大なプレゼントボックスのようなそれは、天辺が大きく開かれている。
 そして、先に来ていた卒業生たちがメッセージを付けた物品を包装して、ボックスの中へ仕舞い込んでいた。剣やら旅道具やら‥‥何と錬金お菓子まで。
「あの箱は錬金術で作られたの。タイムカプセル、と名付けられたそうよ」
 魔法の花束や錬金お菓子の類に使われている、永く新鮮さを保つ魔法の技術。
 それを応用して作られたもので、封をした瞬間から中に入れたものの時を固着する魔法のボックスなのだという。
「子が成せなくなって、自棄になった錬金術師が作ったらしいわ」
 身体を永久保存し、事象が解決された未来の世界で目覚めたい――そんな願いから生み出された錬金アイテム。
 ‥‥らしいが、AOSの成功によって無用の長物と化したのだ。
 それをせっかくだからと学園が譲り受けた。
「おまえたち、何か取っておきたいものはない?」
 AOSは近い内に量産体制へと入るだろう。そうすれば次代の命は芽吹き、子孫が生まれる。遥かな未来の子孫へ、贈りたいものはないだろうか?
 或いは旅の最中には持ち歩けない品や、家に置いてはおけない何かがあるなら、入れてしまえばいいだろう。ボックスは厳重に保管され、世界の危機のような大きな出来事があったときや、本人が要請したときのみ開ける予定だという。安全な場所で眠らせておきたいものがあるなら、恐らくここが世界で一番適した場所だ。
 これが今回の同窓会のメインイベントだ。
 ――いや、大した理由が無くてもいい。
 いま書いた手紙でもいいし、今日のおやつでもいいし、とにかく――何でもいいから。
「後世の人たちが役立てるために、入れてくれると嬉しいわ」
「‥‥?」
 急に出てきた『後世の人』。
 その意味がよく分からず‥‥困ったようにラナを見れば、彼女は淀みなく応える。
「入れた物が何であれ、歴史的価値が生まれるわ。何せ、おまえたちはデュルガー王を倒した英雄なのだから」
 その身に着けていた品が、未来に於いて価値がないわけないでしょう。至極当然のように言う教師へ、そういえばと学生たちは笑う。
 いつか開いたとき。未来の人たちは、この当時の歴史や文化を知り、驚くのかもしれない。
「もっと自覚なさい。お前たちは、歴史に残る偉業を成し遂げたのだから」
 きりりとした瞳で窘める様に言う、ラナ。
 ――相変わらず、この教師は説教くさい。

●それぞれの時間
 タイムカプセルに物品を入れた卒業生たちは、再びラナに案内を受ける。
「講堂で同窓会パーティーをやっているわ」
 立食ダンスパーティー。参加は任意であり、食事やダンスが楽しめる。旅の身空では持ち歩けないドレスやアクセサリーなどは多少貸し出してもくれるそうだ。
 街を眺めて周るのも楽しいかもしれない。懐かしい風景が卒業生たちを待っていることだろう。
「ああ、そうそう。やることがなくて暇なら、特別講師をしてくれると助かるわ」
 冗談めかして笑うラナだが、本気のようだ。
 丁度、邪鬼やら凶暴なアニマルやらを討伐する授業があるらしい。熟練のダーナとして、学生の手本を見せるのも良いだろう。
 少し放任気味の同窓会だが、自由に昔を想い、思い出を温めるのもいいだろう。
 ――あなたたちはこれからも、未来を歩いて行かねばならないのだから。


■登場NPC

ラナ・フィーゲル(xz0012)・♀・36歳・ヴォルセルク・水

■マスターより

 お久しぶりです。宜しくお願い致します!

※この特別イベントシナリオでは、「アイテムコンバート」申請ができます。
 プレイングに「アイテム名・渡したいキャラのID(6桁)・一言メッセージ(任意、全角50文字まで)」を記入すると、タイムカプセルに入れたアイテムが『後世の人』(指定したティルノギアのキャラ)に届けられます。
 詳しくはイベントページ「アイテムコンバート」の項をご覧下さい。

※OPは旅に出ているキャラ主観で語られていますが、学園勤務となったキャラはそのように描写されます。

※NPCはプレイングにて触れられていた場合のみ登場します。
 これは登録NPC(IDを持つNPC)の全員が対象です。但し描写は概ね畑下の裁量で行われますのでご了承ください。

●語り継ぐ
 同窓会の日。
 教壇に立っていたのは、教師ではなかった。学園付属研究所に属する研究員の1人にして、AOSの開発に携わった錬金術師の1人、アレックス・エヴァンゲリアス(xa0505)である。
「特別講義をしましょうか」
 未来を選んだ英雄たちが再びローレックに集まる、今日この日だからこそ。
 選択を継いでいく未来の英雄たちに、アレックスは伝えたいことが――伝えなければならないと、彼が自身に課した使命があった。
「AOSは程なく量産体制に入ります」
 アルター・オブ・スタプナー。
 子を成すことができなくなった世界に創られた、魔法の祭壇だ。女神が行っていたとされる、魂を浄化するための作業。それを、ひとの手‥‥儀式魔法によって行うための装置なのだ。
「どんな立場の者でも『子孫を残す』事が可能になります」
 そして、それには思わぬ副次効果があった。異種族、或いは同性でも、親が2人いれば子を成すことができるようになったのだ。
「元来の理を破り、種族も性別も分け隔てなく‥‥混じり、変化し、生物として新たな可能性を育んでいくのです」
 それは大きな変化であった。
 命のルールが改革される。それはとても素晴らしいことであり、同時に恐ろしいことだろう。
 だが、それも歴史の中では些細なこと。
「100年もすれば過去は忘れられ、1000年を過ぎる頃には、世界はまた異変を迎えます」
 歴史とは、変革とは、そういうものだ。
 今は新たな夜明けを迎えている時。しかし過去の歴史がそうであったように、未来には再び、影は落ちることだろう。
「いずれ黄昏を迎え、夜が訪れるでしょう。ですが」
 アレックスは一度言葉を区切り――そして、力強く続けた。
「明けない夜はありません」
 4年前、学生たちが闇を祓ったように。
 過去、歴史上の英雄たちが力強く立ってきたように――。
 未来の子らもまた、そうして歴史を作っていくのだろう。

●墓参り
 4年前の戦いで、学生たちの手に拠って世界はその行く先を定めた。
 その最中‥‥肉体が耐えらえなかった者も、いた。
「ただいまー」
 ベリル・ラグザ(xa0210)が快活に声を掛けたのは、そんな彼らが眠る場所。戦没者の名前が刻まれた、大きな石碑だ。
 といっても、厳密にはこれは墓ではない。彼らは蘇生の手立てもないほどに、肉体が潰えた者たちだから。
 それでもこうして会いに来るのは、他に戦死者を悼む大きな拠り所がないからというのもあるし――。
『おかえりー♪』
 顔を上げるベリル。実際にはそれは錯覚で、誰かに語り掛けられたわけではなかったけれど。
 それでもたまに、本当にその声が聞こえるから。
「べりるん、そろそろ乾杯の時間だそうです」
 カルナ・ニューク(xz0004)が、遠くからベリルを呼ぶ。
「今行くねー!」
 小さな白い花を石碑に捧げ、彼はカルナの側へと駆ける。
 ‥‥暫く、花弁は微風に揺られて。
 そして半透明の指先で、そっと表面を撫でられた。

 ――4年前から、学園にはゴーストが増えた。
 彼らが現れるようになった理由は未練などではなくて、そう、きっと思い出に惹かれているから、ここにいるのだろう。

●箱
 グラウンドの端に設置された箱。隅にあるとはいっても、その存在感は何というか、圧倒的であった。何しろ大きい。
 その前で、うんうん悩むショウ・ガイスト(xc1838)。
 どれがいいか、どれを残すか。
 両手に1つずつ、思い入れのある品を乗せて、ショウは唸る。
「ノヴァさんは、決まった?」
「んん‥‥うん。まぁ、役に立つかなって」
 彼はどうやら魔法の杖を入れるらしい。またそれにお守りとして、ブラン――白フクロウの羽根も添えるようだ。受け取る誰かに幸運があるように、と。
「どんなやつが受け取るかな‥‥」
 楽しみだと言わんばかりに箱を見つめるノヴァ。
 教師の口ぶりからすると、もしかしたらいつかの未来に箱が開封された暁には、中身は歴史研究とかに回されて、展示されたりするのかもしれない。
 使ってもらえるならそれがいいけど、展示は展示で平和的だから、いいのかもしれない。
「『歴史的価値のある品になるのよ』‥‥なんて、何だか」
 ちょっとした物真似をして笑うショウ。変わりなく元気そうな教師の姿に、少し安堵している様子を見せて、そして彼女は片手を持ち上げる。
「‥‥うん、こっちにしようかな」
 そう言って高く掲げたのは、羽飾りの方だった。
 もしも未来に何か翳りが落ちたなら。残していたら役立つのはきっと竪琴の方だろう。
 けれどこの竪琴は――。
「――アルセに」
 視線を送った先で、受付役の教師と戯れる茶髪の幼児。養子として迎え入れた2人の子どもで、名をアルセという。
 アルセに残しておきたい、そう思える物品をこの箱に投じてしまうのは、何だか少し違う気がする。
 それに何より――。
「折角ノヴァさんから貰ったものだから、あたしが手放したくなくって‥‥」
 その言葉に、ノヴァはちょっと鼻白んだ様子を見せた。多分、照れているのだろう。
「これを受け取る誰かが迷ったときに、導いてくれるように、って」
 立てかけられた足場によじ登り、大層大きな箱の中にそれを入れる。中に待機していたボランティアの学生が、壊れないよう頑丈な箱に入れた上でそれを整頓する。
「何かの役に、立ったらいいな」
「そうだね」
 そのてきぱきとした作業を見送った後、2人はアルセのところへ、そして同窓会のパーティへと足を運ぶ。

●とんでもない物を入れていきました
 サディアス・フェザー(xb2296)が妻ディアドラ・エインズワース(xz0074)を伴って箱の下を訪れた時、周辺は何やら騒然としていた。
 何事だろうか、トラブルでも起きたか? 原因を探ろうと、サディアスは咄嗟に駆けだした。機敏に身体が動いたのは、元学園警邏隊としての経験からだろう。
 だが、小走りのディアドラが追いついた頃には――サディアスは、今にも吹き出さんばかりに肩を震わせていた。
「あの、どうし‥‥あ」
 ディアドラもまた、すぐに状況を理解して、半ば呆然と目の前の出来事を見つめる――。

 あれは忘れもしない‥‥そう、ずっと前(細かいことは振り返らない、光の天馬だから)
 俺はパッパカ、謙虚なペガサス
 一応ローれックに属することになってはいるがやはり
 空想から醒めると久し振りに見る顔が
 まだ裏世界でひっそり幕を閉じてないようで何より
 ペガサスはお前等の為に盾をしてやってるんだからな
「パッパカ元気にしてたー?」
「問題ない」
「こっちは子どもできなくなるっていうから部族あげての結婚・誕生ラッシュでみんなてんてこまいなんだよね。定住してないからAOSの普及もどうなるかわかんないしで」
 顔を見せなかった理由をれっきょする人間
「だから会いに来れなくて」
 ――し、心配してないし
 ペガサスは人間なんかどうでもいいし
 ぜいじょくな人間はどうやら俺の強さに憧れているらしい
「パッパカがうちの部族の守護神になってくれればいいのにー!」
 だがそいつはとんでもないことを言い出した
「タイムカプセル入ってみる?」

「箱に入るとか無理だろJK」
「元は人間が入るつもりで作った物らしいから大丈夫なんじゃないかなー?」
 真顔でツッコミをくれるパッパカに、とてもいい笑顔で返すヨルダ。
 どうやら周囲に起きている謎のざわつきは、彼らのやり取りが原因らしい。
「相変わらずのようだ」
「そう、みたい‥‥だね」
 ふふ、と笑い声を零すディアドラ。
 未だ表情の乏しい彼女ではあるが、それでも昔に比べればその変化は劇的だ。
 この何気ない仕草を見た時など、日常的に自然な笑みを零す彼女。その変化‥‥成長を、サディアスは好ましく受け止めていた。
「ヨルダ」
「あ、サディアス!」
 掛け替えのない友人が顔を見せれば、ヨルダはぱあっと顔を明るくした。現状を軽く説明した後、ちょっと残念そうに顔を曇らせる。
「先の見通しとか全然立たなくて、子孫が学園に来れるかも分からないから、パッパカが見守ってくれたら心強いのに」
 でもナマモノはやっぱりだめなのかなー、パッパカ学園の子だしなー‥‥心細そうなヨルダの態度は、パッパカの心に火を点けた。
「チョ、チョットダケヨー?」
 するりと箱へ入り込んだペガサスに、うわあと快哉が上がる。
「そこまで深い絆で結ばれていたとは」
「ラグビー部としても、ヨルダさんになら文句はありません」
「えっちょ」
「ありがとうパッパカ! もし子孫と会ったら伝言ヨロシクね!」
 こうしてパッパカは出るに出られなくなりましたとさ。
「俺は、これを」
 何事もなかったかのように、サディアスはそっと金属片を手に取った。
 ‥‥それは、ガンソードの鍵。
 ディアドラは知っている。それはサディアスが、肌身離さず持ち歩いていたものだ。
 道具としては最早役に立つことはないだろう。ガンソードはもう、ここにはない。
 学生たちで復活させた聖剣Xと1つになり、デュルガーの割れ目に落ちていったのだ。コモンヘイムとデュルヘイムを繋ぐその大穴を楔のように結び付け、閉じた割れ目にて闇を封じているようだ。
「子に直接託すのでも良かったが、遠い未来の、俺たちの子孫に届くのも面白いだろう」
 何かに迷ったとき、立ち向かう時、力を与えてくれる存在となるように。
「――」
 箱に収められるその鍵を、サディアスは感慨深く見つめる。
「‥‥サディアスさん」
「何々、何の話ー?」
 同じく感慨深くパッパカを見送っていたヨルダが、2人のところへぱたぱたと駆けてくる。
「道すがら話そう」
「ヨルダ、さん。よかったら‥‥一緒に会場、行きましょう」
「行く行く!」
 わいわいと賑やかに、箱へ背を向ける3人。
 それぞれの想いは永い、永い時間をかけて、未来の誰かに届けられる。

●変わったり変わらなかったり
「おーみんな久しぶり!」
 講堂へ入るなり、グラナート・ミストファイア(xa0501)は大声を上げた。
 見知った顔がずらりと並ぶ機会は、卒業してからは殆どなかった。珍しさと、懐古の気持ちと、無事を喜ぶ心と――色々で、彼は軽快に同級生へと歩み寄る。
「懐かしいなぁ! 元気してたか?」
「変わりなく」
 そう言って微笑むイクシア・バラン(xa0991)は、確かに変わっていないように見えた。いや、よくよく見れば相応の成長をしているようだ。身体つきが、在学中よりもしっかりと逞しくなっている。
「もう少しでスパーキングドラゴン君の観察に成功しそうだったんだけど」
 呼び戻されたから急いで来た‥‥眼鏡の奥でどこか不満そうに言うのはマウリ・オズワルド(xa2601)だ。
 変わらないと笑われるてもいたが、一部の者たちはそれを意外とも捉えた。マウリほどに研究へ熱中しているなら、同窓会など放り出して血道を上げるモンスター研究に邁進しそうなものを。彼にとっても、同級生たちとの邂逅はそれだけ大きな意味のあることなのだろう。
 そして、目に見えての大きな変化も。
「ご挨拶できるかな?」
 ラスティア・インノバドール(xb2367)が抱え上げたのは、アルストラ・クレイドル(xa0989)と間に産まれた男児だ。
「こんいちは!」
 ちょっと甘めの発音はいかにも子どもらしく、大きな声は活発な印象を与える。物怖じしない人懐っこさがいかにも可愛らしかった。
「おー、こんにちは!」
 手を伸ばし、その小さな身体をラスティアから預かる。高く掲げてやると、男児はわあと嬉しそうに声をあげた。
「ヒューと言うんだ。とても元気に育ってくれている」
 アルストラが紹介すると、男児‥‥ヒューは嬉しそうに手足をばたつかせる。
「うちもなー、フットボールチームくらい子ども作りたいって俺が勝手に言ってるんだけどよ」
「グラナートさんたら」
 すかさず突っ込んだのはオールージュ・フランコルシャン(xa0064)。ぺちんと平手が彼の背を叩く。各地を飛び回るグラナートと、ローレックに残ったオールージュ。寝起きする場所は遠くとも、何だかんだこの二人の熱は続いているようだ。
「そうそう、せっかく来てくれたんだから、スパにも入って行ったらどうかしら?」
 しっかり綺麗に清掃しておいたから、と。オールージュは相変わらずの美しさで笑う。
 彼女は現在、寮母となって学生たちの生活を支えている。他の者たちよりも、卒業生との繋がりは強い方だと言える。
 マウリもまた、ちょくちょくローレックへと帰ってくる者の1人だ。
「マウリさんも変わりなく?」
「変わっているのは世界の方だね」
 肩を竦めるマウリ。
「月道が使えなくなってグリーヴァへ行けなくなるのは残念だね。向こうの固有種の調査もしたいのに」
 シーハリオンの先端が消失し、魔法の力が弱まっている。まだ繋がってはいるようだが、いずれ月道は閉ざされるだろう。今にも飛んで行きたい気持ちはあるが、短い年月でどれだけ実りのある調査ができるか‥‥悩ましいところだとマウリは話す。それでも行ける内に1度は行っておきたいのか、話は段々グリーヴァでどう効率的にモンスターと出会うかへとシフトしていった。
 本当に、全然変わっていない。くすくすと思わず笑いを零すオールージュ。
「個性的なモンスターがどこから生まれて来て、何の為に存在し、どう影響しているのか――」
 ふと、マウリの声が真剣みを増す。
「その謎を解き明かすことを、僕1代だけじゃなく謎が解けるまで代々追い求めていきたいと思ってるよ」
 長く、永い年月を伴う使命、それをまっとうする決意を、眼鏡の奥に、マウリは光らせる。
「お変わりないようで何よりでございます」
 そんなマウリへ給仕をするのは――エドヴァルド・シュルズベリィ(xa5784)。
「エドヴァルドさんったら、今日はゲストの側なのに」
「いえ、どうも‥‥招かれる側には落ち着くことができないようで」
 困ったように笑うエドヴァルド。給仕係のボランティア学生よりも、確かに適切な動きをしているけれども。お酒もお茶も、よくよく見たら彼の尽力のお陰で一切途切れていないようなのだが‥‥。
「少し落ち着いたら? そうだわ、近況を聞かせて」
 オールージュの勧めもあって、とりあえず動きを止める。
「わたくしはとあるお屋敷にて、セティ様と共に平和に暮らしております」
 絆を温めつつ、屋敷の住人のお世話もしつつ。癒しの魔法は未だ修得してはいないが、そもそも怪我をさせることなどないので問題はない。
「箱には、何を入れたのかしら」
「何か、歴史的資料となるようなものがあればと思いましたが、生憎それといったものは思いつきませんでした」
 チェスに関連した物を、とも思ったが、箱が空けられる頃には指し手も進化していることが予想されて‥‥時代遅れの物で役に立たないものとなってしまっては勿体ない。
 ならばどうすると考えて‥‥最後に残った選択肢は、『思い出を詰める』ということだった。
「最終的に、アーク様より戴いたCROSSを1つ、納めさせていただきました」
 アーク。聞こえてきた名に、傍で食事を採っていたデューク・レイクウッド(xa5483)が思わず眉を跳ね上げる。
 だが反応してしまう事実も何となく悔しいのか、何事もなかったかのように食事に戻り――。そんな様子を見て、オールージュが笑う。
「ふふ‥‥デュークさんは? 最近はどうしているの?」
「随分熱心に聞きまわるんだね?」
 ふとマウリが口を挟む。どうやらオールージュの様子をしっかり観察していたらしい。
「だって遠方にいたとか、どうしても都合がつかなかったとか‥‥色んな理由で、今日来られなかった人だっているでしょう?」
 オールージュは学園の寮母だ。ローレックの街に居続けている上、学園に所属しているから卒業生の来訪も察知しやすいし、時間にもそこそこ融通が効く。
 ――だから。
「運悪くすれ違った人には、私から話してあげたいの」
 そう言って、美しく笑むオールージュ。
 聖母。場にいる者達の脳裏に、そんな言葉が想い浮かんだ。

「ラナ先生も、お久しぶり、ですー‥‥!」
「ええ、久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
 頭を下げるシア・ラストラル(xa0411)へ微笑み、手を挙げるラナ・フィーゲル(xz0012)。
「おまえは子を成したのではなかったかしら。夫と子どもは、今日は?」
「子どもたちは旅の疲れが出てしまったみたいでー‥‥宿で、パパと待って貰って、ます」
 折を見て交代するつもりなのかもしれない。少し心配そうな様子を見せるシアに、ラナは笑う。
 そして夫によろしくね、という言葉に続けて、ラナはシアを気づかう。
「子を育てながらの旅は大変でしょう? 可哀想だけれど、たまの1人でしょうから羽を伸ばすといいわ」
「そうよ、わたくしなんて子どもは本土の使用人に預けっぱなしで来ちゃったもの」
 すると背後から耳馴染んだ声。
「ロゼッター‥‥!」
 振り向く前から、名前を呼ぶ。久しぶりに再会した彼女は、ますますもって美しくなっているようだった。
 変わらない意思の強そうな瞳。でも雰囲気は、どんどん大人っぽくなっていく。自慢の友人の姿は、シアにはとても眩しくて――。
「何かシア、綺麗になった?」
 そんな気持ちは、お互い様のようだった。
 学生時代に戻ったかのように笑う2人を微笑ましく見守った後、ラナは窓を見た。
 陽が中天に差し掛かろうとしている。
「もうすぐ授業が始まる頃合いよ。臨時講師をしてくれる者がいるなら、受付の辺りへ向かってちょうだい」
 大きな声で講堂を震わせれば、アーク・レイクウッド(xa0223)やミラベル・エリヴァーガル(xb2520)がぴくりと反応し、何やら荷物を整え始める。
 そして、もう1人。
「一肌脱ぐかぁ!」
 グラナートが揚々と腕を振り上げるのを見て、彼を取り囲む旧友たちは何とも言えない気持ちになった。
「脱ぐのは俺の専門だからよぉ‥‥って違うの?」
「本当に、相変わらず」
 オールージュが笑い出す。
 ――ダーナとして飛び回る彼と、今日は久しぶりの再会で。
 逢えない時間を濃密に埋めるのかと思いきや、必要を見つけたらすぐに飛んで行ってしまったり。
(本当に、仕方ないんだから――でも)
 そうやって奔放に飛び回る彼が、好きなのだ。

●少しずつ変わる
「うわあああ、ちょっと、待って待って近づけないで!」
 裏返った声が響く。ダリウス・フィゲリック(xb9077)の連れてきたパンダのパムパムを見て、ヨルダが悲鳴を上げたのだ。
「パムパムの散歩をしていたんです。すみません」
 困り笑いのダリウスの横には、兄のセグナス・フィゲリック(xa0149)がいて。その傍にはセグナスが警邏隊から連れてきた、尻尾をぷりぷり揺らす柴犬のマロ。その頭をサディアスがぐりぐりと撫でてやると、丸まった尾の動きは更に激しくなった。
「久し振りに会えてよかったな、マロ」
 思ったとおりマロは懐かしい顔をしっかり覚えていて、はしゃいでしまって仕方がない。
「元気そうだな。俺も久し振りに会えて嬉しいよ」
「わんわん! わん!」
 鳴き声にもはち切れんばかりの興奮が篭っていて‥‥ヨルダとサディアスの間でぐるぐる回ってはどちらかに寄り添って撫でてもらう、という一連の動作を繰り返している。
「もう少し生活が落ち着いたら、ローレックのグリーヴァドッグを譲り受けて育ててみたいな」
 微笑んでディアドラを見ると、彼女も小さく頷いた。
「‥‥素敵、だね。きっと、あの子も喜ぶ‥‥と、思う」
「2人の子どものことですか?」
 セグナスの問いに頷くディアドラ。
「当たり前、だけど‥‥同じくらいの年の頃、です、よね」
 彼女の視線の先には、セスとシャンテルを抱き上げるイノメア・スピルス(xz0047)の姿。
「双子育児は大変だなー! でも、何とかやっていけてるよ。そっちはどうだ? 元気でやっていたか?」
 イノメアの問いを皮切りに、お互いに近況報告が溢れ出る。セグナスはグリーヴァの文化研究や、あちらの民との相互理解に努めているという。またグリーヴァにも学園のように、学びを得られる場所の確立に向けて尽力しているとのこと。そして、そのためにはグリーヴァ語を理解する者がもっと多く必要で‥‥。
 月道が閉ざされる前にと思えば、できること、やりたいことは山積みだ。限られた時間の中で、どんどんとやるべきことを詰め込んでいる。
 妻イノメアはそんなセグナスと交代で育児を頑張りつつ、教師業を続けているらしい。友人サーヤの菓子店や旧おんぼろ宿屋の人々と共に、相変わらずな日々を送っているとのこと。
「グリーヴァ語にも少しは明るくなったんだぞ」
 胸を張る彼女はやっぱり『ノノちゃん先生』だ。親しみやすく、学生と目線がとても近いのは、年を重ねても変わっていないようだ。ころころと遊んでほしそうに転がってきたパムパムをうりうりと撫でてやる姿は、あの頃のままの彼女だった。
「ユアン店長もお久しぶりです」
 そしてセグナスは、近くで串焼き肉を摘まんでいる購買店主にも声を掛けた。
「あんたとは割と会っている方でしょう。お互いローレックにいるんですから」
「そうですか? 皆ほどじゃなくても久し振りでしょう」
「そうですよ、ユアン講師。それに、セグナスさんとはたまに会えてても、皆で集まるのなんてすごく久し振りじゃないですか!」
 伴侶であるセーユ・エイシーア(xa2052)の声が、セグナスの意見に同意する。
 ユアン・ペインス(xz0015)に声を掛ける時のセーユの表情は、昔に比べて随分と明るい。
 種々様々な言葉にきっぱりとノーを返された日々も今は昔、今はセーユの言葉には大抵相槌が返ってくるし、時には柔和な表情すら見せて‥‥。
「‥‥」
「‥‥あ、あれ?」
 返事がない。どうしたことかと夫の顔を見れば、彼は何やら沈思黙考していた。
「‥‥ああ、すみません。何でもないです」
「でも」
 と言いかけたところで、抱き上げていた娘のユーシィが不意に仰け反った。幼児特有の動作の遊びだが、ついつい心配の声は途切れてしまって。
 その隙間へ、リーラ・アリエクト(xa0005)が笑って声を掛ける。
「あ、講師、もしかしてお疲れですかー? そろそろ年齢も年齢ですし」
「おやこんなところに芸術セットが」
「角はやめてー!?」
 絵の具箱を振るアクションをすると、リーラはバッと頭を隠す。大仰なリアクションに満足そうに頷いて、シィーユ――ユーシィと同日に産まれた、双子の娘の片割れを抱え直すユアン。
「うちのファーランも大きくなったのー可愛いでしょー♪」
「似ています。顔立ちとか、活発そうなところとか」
「なーにー?」
 よく分かっていないのか、両親の顔を見上げる3歳の幼子。ファーエルとリーラの間に生まれたファーランは、両親の特徴をよく受け継いで見えた。特に、好奇心に輝く瞳は両親どちらにも似ていると思える。
「その子も、セーユと先生によく似てる」
「――‥‥」
 フォーシャル・ソルディアス(xa1883)の言には、何となく瞬きをして、その後ふうと息をついて。
「俺をそう呼ぶのは、あんたぐらいのものです」
「そうだったっけ?」
「最初の頃は、教師だと勘違いしてそう呼ぶ子もいますけどね」
 とぼけるフォーシャルに対して語るユアンは、何だか穏やかな雰囲気を醸し出している。
 愛する伴侶を得て、子を持つ親になったからか。
 何にせよ、ユアン・ペインスという男は、何だか随分丸くなった気がした。

 久々に会った学生と談話に興じるユアン。
 その様子には別段おかしいところもなく‥‥先程見えた不思議な態度は気のせいか、とは思いつつも。何だかセーユは気になって。
「セーユ!」
「あ、みんな!」
 だが旧友が集まれば、疑問顔はすぐにぱあっと明るくなった。
 シューリア・シーリア(xa4388)は日頃からよく会っている。だが2人で旅に出たフィザル・モニカ(xa2077)、シルト・グレンツェン(xa2837)とは大分久しぶりの再会となる。
「みな元気そうで何よりだ」
「これまでの冒険で随分お金もたまりました」
 フィザルが具体的な額を伝えると、セーユは何やら考え込んだ後、「あと少しだけ」と返答した。「最近の地価や物価を考えると――」など、商売人の妻であり、自身も売り買いの心得を持つ彼女の聡明さ、時流を見る力に、フィザルは舌を巻く。だが次いで示された追加額にはほっと胸を撫でおろした。それなら、きっとほどなく貯まる。
 達成したら、フィザルたちは孤児院を建てるつもりだ。セーユの経営する治療院と併設する予定で、もしそれが実現されたなら孤児たちには飢えや苦しみを感じない素晴らしい住環境が提供されることとなるだろう。
「その時は私もローレックに定住することになるのか」
 目の前の目標に注力するあまり、先のことはあまり具体的には考えていなかった気がする。どうするか、と呟くも、ゆっくり考え事をしている余裕はあまりない。
「あ、こら、‥‥もう!」
 シューリアが慌てた声を出す。彼女の娘ジェリアとセーユの娘ユーシィが水を零して裾を濡らしていた。
 少し目を離したら、すぐこれだ。すぐにハンカチで拭ってやると、今にも泣きそうな表情が目についた。
「ミュー、コミュー。何とかしてあげて」
 シューリアの呼び声に応え、パペットで仮初の命を得たぬいぐるみたちがくるくるの周りを踊る。ぐずりかけたも、馴染みの光景に浮かんだ涙をひっこめる。
「手慣れたものですね」
「まあね」
 フィザルの賛辞に、軽く笑うシューリア。
 AOSではなく自然妊娠で産んだ子どもだから、もうかれこれ母業を3年以上勤めていることになる。無事に産めたし、お互い夫婦仲も良好。行き来の中で3人の娘たちは仲良く交流しているし、セーユにもシューリアにもしっかりと懐いている。
 ――自分たちがいない間に、シューリアもセーユも少し変わったような気がした。母として、誰かの妻として、逞しくも美しく。
 それが何だか、少しだけ寂しい気もして‥‥。
「フィザルさん、少し逞しくなったような気がするよ」
「え?」
「そうそう、やっぱり旅をしていると体力とか付くのかしらね」
「冒険は体力勝負なところがあるからな。自然と筋肉はついていくかもしれない」
 セーユとシューリアが口々に言うと、シルトも乗っかって。
(‥‥そう、ですか)
 少しだけ、胸の奥が温かくなる。
 きっと、自分も同じだけ成長できている。
「春までには不足分を貯めたいです」
 ぽろりと決意が口から零れる。
 そうしたら、また一緒に暮らせる。成長だって、一緒にしていける。
「やはり『ずっと離れ離れ』なんて事はなかったですね」
 自然と笑みを浮かべる口元。それに呼応するように、他の3人もにっこりと笑い合う。

●おかえりなさい
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
 そう言って、数多の学生を出迎えるソフィア・フローリス(xz0104)。手には、現役学生のための荷物が抱えられている。
 学園に残って教員の助手をしている彼女からすれば、今回の同窓会は『みんなが帰ってきた』という感覚なのかもしれない。
 だが、それでも。
「おかえりなさい」
 自分に向けられたその言葉は、殊更に親しみが篭っていたような気がする。
 勘違いだろうか? いや、きっと――自分の感覚を信じ、タンドール・フクトー(xc1546)は胸に広がる温かな気持ちをそのまま表情に浮かべた。
「皆さん、変わったような変わってないような‥‥不思議な感覚がします」
 学生たちから聞かされた冒険譚を聞いて、そんな感想を零すソフィア。
 ソフィアが近況――相変わらず教師たちの手伝いを続けていること――を語ると、タンドールもまた彼女へ近況を報告する。彼は今、オーディアとその周辺をうろつきながら、メロウとヒューマンの融和に努めていた。
 尽力の甲斐あって、近海の若いメロウを中心にゆっくりと、だが着実に意識の変化が起こりつつある。
 ‥‥時折ローレックに寄ってはソフィアに話している内容だから、然程目新しいことはないけれど。
 それでもソフィアは、彼の努力が実りつつあることを純粋に喜んでくれた。
「よかったら、これを」
 そういえば‥‥と自然な形で差し出したのは、近海で購入した耳飾りだ。
「綺麗」
 ゆったりとそう零した後、彼女は早速自らの耳をそれで飾る。淡い虹色をたたえた貝殻は、ソフィアの白い耳元によく似合っていた。

●仲良し4人組
「サジ、プニ、久しぶりだな!」
 ファーエル・ランス(xd2067)の声に、名指しされたサジ・フェルタール(xd0302)とプニ・サルタバルタ(xd1752)は喜びをもって迎え入れた。
「いろんなところを見て回ったぜ」
 ファーエルの後ろには、もちろん旅の相棒ジンライ・ナルカミ(xd1741)もいて。
「相変わらず仲良さそうで何よりだぜ!」
「えへへー」
「その食欲も相変わらずで何よりだぜ」
「えへへー」
 大変幸せそうにパイを頬張る彼女の姿は、ファーエルとジンライに「帰って来たんだ」という実感を与えてくれる。
「旅はどうですか? 危険なことには」
「やっぱり世界は広い。まだまだ見たりないところはあるけど」
 少し心配げなサジには、ジンライが笑って返す。
「たまにはこういうことに時間を使うのも悪くないな?」
 ゆっくりと過ごす日常があればこそ、旅のスリルも更に輝くというものだ。

●空舞う彼女ら
「あ〜、アリーナ〜! あいたかったよ〜!」
 飛びついてくるシャインベリー(xd2189)があまりにも可愛らしくて、アリーナ・オルックス(xc0035)は幸せそうに笑う。
「ふふ、懐かしいわ、ね。元気だった、かしら?」
「うん! あたし、どうぶつさんがげんきにしてるか、おせわしてるよ〜!」
「動物さん?」
 優しく尋ね返すアリーナに、シャインベリーは身振り手振りを加えつつ、自分の近況を語って聞かせる。
「いまね、なかよしのとりさんがいるんだ〜!」
 卒業の後、彼女はローレック近くの森へと移り住んだ。大好きな動物、自然、美味しい果物。彼女の生活はとても充実していた。きらきらと目を輝かせるシャインベリーは、本当に本当に、心から幸せそうで。見ているアリーナまでもが嬉しくなってしまう。
「がくえんにも、よくくるよ〜! こうはいのみんなもあそんでくれるの〜!」
 そんなお喋りをしていたら、「あっ」と小さな声がする。2人が声の方を見れば、そこにはアールガシーダ(xd0740)がいた。
「えーとえーと、よく覚えてないけどなつかしーい感じがしますのよー!」
「そうなの〜? じゃあきっと、いっしょにたくさんあそんだんだよ〜!」
 うーんうーんと中々思い出せないでいるアールガシーダ。それでも心に引っかかるものはあるようで、2人の顔を交互に見比べている。
「あら、あらあらぁ。今日はみんないっぱいなのねぇ」
 そこへリエリア(xd1000)もやってきた。更に人数が増えて、アールガシーダは大混乱。
 うんうん唸って、頭を捻って、そして。
「シャインベリー?」
「そうだよ〜!」
 名を言い当てられて、シャインベリーはきゃっきゃと嬉しそう。
「そういえば、箱にはもう物を入れたの、かしら?」
 思い出すことの補助になればと、アリーナが言い添える。するとアールガシーダはやっぱりうんうん考えた後、そうだったーっと手を打って、身分証明のプレートを入れたことを語る。
「未来の私の役に立ちますようにー、って、入れたんですのよー」
「未来の‥‥」
 入れた物は後世にまで残るという話だったが、そういう考えもあるのか。少しの驚きを感じて、頬に手を当てるアリーナ。
「私、普通に魔法の杖を入れてしまった、わ」
「いーんだよー!」
 それもきっと、誰かが役立ててくれることだろう。それはアリーナの知らない人かもしれないけれど、きっと想いは受け継いでくれるはずだから。
「そうそう、私、少し部室の様子を見てきたいの、よ」
「お友だちがいらっしゃるの?」
「いいえ。でも、自分が作った同好会が、今も続いているか知りたい、の」
「何ていう部活ですのー?」
「空中散歩同好会、よ」
 シフールたちの質問攻めに、あらあらと答えるアリーナ。まだまだ遊んでほしそうな彼女たちは、一緒に行きたいとせがむ。
「そうだ〜! くうちゅうさんぽって、おそらをとぶんでしょ〜?」
 部室棟へ行くより、空を飛んだ方が部員を早く見つけられるんじゃ? シャインベリーから飛び出た一生懸命な提案に、アリーナは困ったように両頬を抑えて。
「あら、あらあらぁ。一緒に飛ぶの? 楽しそうねぇ」
「でも私、箒を持ってきていない、わ」
「だれかがかしてくれるよ〜」
 シフールたちに引っ張られるようにあれよあれよと中庭へ出る。
 すると、そこには。
「アリーナさん」
 セルヴィア・ノルンフォード(xb3586)。先輩であり、かつ部活動をともにした彼女。
 顔を合わせられたことが嬉しくて、お互いににっこりと微笑み合う。と――。
「ほら、見てください」
 セルヴィアはそっと空を指さした。
「同好会、今日は昼から活動だそうですよ」
「まあ‥‥!」
 微笑んで言うセルヴィアに、アリーナはますます笑みを深くした。
「残っているの、ね」
 活動の証が、アリーナの足跡が、ローレックの空に‥‥こんなにもはっきりと。
 青空を飛び交う箒たちを視線で追いかけた後、アリーナはゆっくりと瞳を閉じた。

●変化と安心と
「パッパカ入れちゃったの!? あはは、ヨルダ、全然変わってないんだね!」
 そう笑うのはレミフェア・ドリムス(xb3378)。ドレスを借りて、すっかりパーティー会場の華と化した彼女は、同級生を中心に話を聞きまわっていた。今日は子どもを父と夫に預けていた為、思い切り羽を伸ばしているようだ。
「飲み物いかがですか」
「ありがとー!」
 配膳係の現役学生からカップを受け取り、口元を綻ばせるレミフェア。塗られた紅も魅力的だが、それ以上にとんでもないのが足だ。借り物だからか少しだけサイズの小さなドレスは豊満な胸元を押し上げ、スリットから覗く太ももをより大胆に見せている。
「やっぱり卒業すると大人っぽくなるのかな」
 配膳の男子学生たちが、そんな風にぼそぼそと話をしていると、いかにも真面目そうな女子学生がやってきて。
「ちょっと男子、鼻の下伸ばしてないの!」
 ぺちんと冗談めかして叩こうとしたのだろう。手を振り上げると――何かにぶつかった。
 何もない筈の空間。でも、確かに何かの感触。何だか温もりすらあるような‥‥?
「きっ‥‥きゃあああ!!?」
 驚き逃げていく学生たち。何だ何だとみんながそちらを見ると、ああと納得したように視線を戻す。
「マヤだよね?」
 レミフェアの言が大正解。渋々といった風情でマヤ・スカイイースト(xb0251)が姿を現した。どうやらインビジブルで隠れながら、学内を見回って来たらしい。
 その正体を看破できたのは、彼女の悪戯好きは有名で、レミフェアがその性格を知っていたから‥‥というだけではない。
 彼女の名をぴたりと言い当てたレミフェアが洞察力と視力に秀でているから、というのももちろんある。だが、それだけでもなくて。
「やっぱり少し、調子が悪い気がしますね」
 魔法の力の弱まり。それをマヤは如実に感じ取っていた。以前はもう少し、気付かれるまでの時間が長かった――そんな気がするのだ。感覚的なものだから、ハッキリとは言えないけれど。
「あたしも薄ら感じるよ」
「‥‥わたし、も、です」
 レミフェアが同意すると、ディアドラもまた頷いた。
 ゆったりと衰えていく魔法の力。それはシーハリオンの先端が消失したことと関係あるのだろうけれど‥‥今まで使いこなせていたものが緩やかに衰えていくのは、どこか少し怖いものだ。
 弱くなってしまう。すると当然、不測の事態に弱くなる。
 マヤはサッと顔を蒼褪めさせて――。
「在りし日のお茶話部活動のように、ドラゴンとかティートロールとか来ませんよね?」
「来ないよ!」
 思わず突っ込むレミフェア。
「まあ、それくらいなら来たところで大丈夫だろう」
「みんな忙しいだろうけど、だからといってそうそう急激に腕が鈍ることもないだろうからね!」
 サディアスとヨルダが口々に。概ね彼らの言うとおりで、じわりとした衰えを感じるのは魔法の力のみ。学園生活で磨き上げられてきた体力や技術はそうそう退化するものではなく、寧ろ磨きをかけている者も多い。
 だが。
「そういう問題じゃないのです」
 大仰にぶるりと震えて見せる、マヤ。お茶話部の部活動は、何というか、消せないトラウマを植え付けるというか、言い表し難い――名状しがたい、『そういうもの』なのだ。
「忙しいの?」
 ひとしきり怯える彼女を宥めた後、レミフェアがふとそんなことを聞いた。
「それはもう。のんびりできる時間というのが、そもそもとても貴重なのです」
 マヤの目下の目標は、実家である神殿の再興だ。それに加えてグリーヴァへの宣教や交易へ一枚噛みたいと考えており、それは月道が完全に閉ざされる前にやりきってしまわねばならず‥‥要するに、多忙に多忙を重ねたような状況にいるのだ。
「そっか、それじゃあ今日会えて――」
「トロトロトロー♪」
 よかった、そう言おうとしたレミフェアの頭上に、どすんと重みが乗る。
「ん?」
「レミフェアー♪」
 その正体は、シフールのトロ(xd3422)だった。
「げんきそうでとってもうれしいのー♪」
「あはは、ありがとうね!」
「ごはんいっぱいたべるのー♪」
「わっ!? ドレスに木の実の殻がー!」
 あわあわ漫才を繰り広げ始めるレミフェアとトロ。
 マヤは、そんな彼女たちを微笑ましく見つめ‥‥ていると。
「わっ! す、すみません!」
 給仕の最中、学生が水の入ったカップを倒してしまった。慌てる彼の側へエドヴァルドがサッと現れ、てきぱきと事態を収束していく。
「申し訳ございません」
「み、水は掛かりませんでしたか!」
 学生の代わりに丁寧に謝るエドヴァルド、そして衣服の汚れを心配する学生。
「大丈夫ですよ」
 そんな学生に、マヤは殊更に優しく微笑を作る。
「‥‥頑張ってくださいね」
「え? あ、はい!」
 偉大な世代の先輩に励まされ、嬉しそうな学生。エドヴァルドにも何度も何度もお礼を言って、彼は倒れたコップを裏へと運んで行く。
 その背を見送って、マヤは今度は作り笑顔ではなく、心から目を細めた。
 ――彼らは、マヤたちが切り開いた新しい時代を生き、新たに発展させていく世代だ。
(私達が予測も付かない事をしてくれる事を祈りましょう――)

●いつか渡したい
「アルディアさんも元気にしてた?」
 尋ねるルージア・レンティアット(xa5191)の顔はとても楽しそうで‥‥問われたアルディア・ティオーネ(xz0073)は、もごもごと口を動かして歯切れが悪い。
「あ、ああ、元気に‥‥」
 目線は逸れて、動揺がありありと浮かぶ声音。
 質問を重ねようとするルージアだが、こみ上げる笑いがそれを阻む。
「というかねーちゃん知ってて言ってるだろ!」
 アルディアの顔は真っ赤になった。耐え切れず、噴き出すルージア。
「ごめんごめん、だって、ねえ?」
 笑いながら隣へ視線を移すルージア。そこには彼女の恋人にしてアルディアの友人であるルカが、やはり笑いを堪えている様子だ。
 アルディア・ティオーネ。その名は現在、ある意味に於いて有名だ。
 彼は卒業後、旅に出た。ダーナとしていっぱしに磨き上げられた技を振るい、各地で英雄的大活躍‥‥といきたかったのだが。何故か彼の行く先には面白い不幸が付きまとう。量産された喜劇的なエピソードとともに、不本意ながら彼の名前は広く知られるようになってしまった。
 先行しているのは名前だけなため、顔を見られても笑われることはないのだが‥‥。
「そりゃ、ねーちゃんやルカにはピンと来るよなー」
 元々顔を知っている者に関しては、その限りではない訳で。
「トロール用に自分で堀った落とし穴に落ちたって本当?」
「しかも深過ぎて出てこれなかった上、底に仕掛けてたトリモチで全身ねばねばの真っ白に――」
「何だそれ!? そこまではしてねーよ!?」
 なら、どこからどこまで本当なのか? それを話す前に、
「というかねーちゃんもルカも、今まで何してたか教えてくれよ!」
 強引な話題転換が図られた。あんまり弄り倒すのも意地悪だからと、ルージアは笑いながら今までの足取りを語る。旅芸人として各地を回る、華やかで楽しい日々を。
 その時、ゆったりと美しい音楽が流れてきた。
 質の高い曲に、彼女の胸はうずうずと疼いて‥‥。
「ねえ、踊らない?」
 笑ってルカを手招くルージア。返事も待たずにさっさとダンスフロアへ躍り出るのは、ルカなら来てくれると分かっているからなのだろう。
「いってらっしゃい、チクショー。いいよなー幸せで!」
 祝福のような呪詛のような言葉を吐き棄てるアルディア。だがそんなアルディアへ、ルカは意味深な視線をくれた。
 何だ? 不思議に思って見つめれば、彼は懐に収めている小箱を、ルージアからは見えないような角度でちらりと見せてくる。
「それ‥‥」
「‥‥いつになったら渡せるんだろうな」
 不思議と機会に恵まれない。中に収められている指輪を思い返して、ルカは深々と溜息を吐いた。

●奏で歌って
 巡る巡るや時を超え
 想い願うや祈りのせ
 出会うは誰か 望むは誰か
 未だ見ぬ未来の紡ぎ手よ
 次ぐ魂の遠い友
 その手をとるは――‥‥

 リース・クラウ(xb2373)の歌声に、ティティリア・フォーリンデン(xd3004)の奏でるリズムが重なる。
「まあ、音楽部の」
 そんなリースの姿を見止めて、セルヴィアがやってきた。お互いに在学中のお礼を言い合う。
「参加していきますか」
「ありがとうございます。是非」
 そして彼女も演奏に加え割って、美しい横笛の音を響かせる。
 何か楽しそうだと見て取ったか、トロもやってきた。嬉しそうにベルをがらんがらん。無造作なようでいてぴったりと合ったリズムは、聞く者の気持ちを不思議と温めた。伴侶のいる、恋をしている者は自然と触れ合いたくなるような――。
(魔法のベル、ですね)
 リースは抵抗に成功した。だが、親しい仲間との再会にホッと気が緩んでいる学生たちの中には、その効果を被った者も多いようだ。
「あっ」
 やがて見知った顔を見つけたか、トロはぴゅーんと新たな場所へと飛んで行く。
 可愛らしいその姿を見送っていると、リースは人の輪の中に、そーっと忍び寄ってこようとする1つの影を見つけて‥‥。
「えいっ!」
「おっと?」
 伸びた手を、するりと避ける。
「ああーまた失敗したー!」
 悔しそうに唇を尖らせるリプレ・カークランド(xd3278)。
「そうそう簡単にめくられてはいられませんから」
「あ、リプレー!」
 騒動に気付き、楽しくリズムを刻んでいたティティリアもまた2人へと駆け寄る。久し振り、と抱き合う2人の娘を、まるで保護者のように見守るリース。
「2人とも元気? 箱にはもう入れて来たの?」
「ええ、ええ。そちらは?」
「あたしはねえ‥‥今日もいっぱい元気だよ!」
 矢継ぎ早の質問を、どれも笑顔で肯定する。
「ねえねえ、学園周るの? もしよかったらあたしも一緒に周っていい?」
「もちろんなのよー! 聞かれなくったって、当然いいに決まってるでしょっ」
 ティティリアは笑って楽器を置く。指を絡めあい、2人はきゃっきゃと歩き出した。
「引き継ぎますよ」
 セルヴィアの言葉に甘え、リースもまたハーディ・ガーディを肩から降ろす。
「‥‥」
 変わらず仲の良い2人。種族の垣根など感じさせないその姿を見て、密やかに息を吐くリース。
 リースは人間でありながら、メロウであるティティリアと密やかに結婚した。勿論公的なものではなく2人きりで式を挙げただけだ。
 ――AOSで世界が変わろうとしている。
 異種族結婚も、もしかしたら珍しいことではなくなるかもしれない。
 だが彼らはまだ、子を持つ選択をしていなかった。
 これから先、どういう選択をするかは分からない。子孫を設けるかどうか――もしかしたら2人は、子という形では未来を繋がないかもしれない。
 それでも、2人は残した。
 未来の見知らぬ誰かさんへ、想いを込めた品を。
 その行動の裏に在ったのは、信じる心。
 きっと2人の魂は、またどこかで巡り逢い、眠らせた品をその手に収める。そんな、確信めいた予感だった。

●手に手を取って
「4年‥‥」
 もうそんなに経つのか。変わっていないようで変わっている、眩しい学友たちの姿。そこに過ぎた年月を感じて、イクシアは些か驚いていた。
 過ぎた年月へ実際以上の重みを感じるのは、激動だったせいか。
 ‥‥否。
(あの時間が特別で、今、妻子との時間が幸せゆえ‥‥だな)
「どうしました?」
「‥‥いえ」
 物思いに耽る端正な顔を、妻がそっと覗き込んだ。きらきらとした青い瞳は全てを見透かすようで、イクシアは柔く笑む。すると彼女もまた笑って、深く尋ねることなく話題を変えた。
「例年どおりならきっと、もうすぐ桜祭りがありますよね。その頃にまたローレックに来るのもいいかもしれません」
「そうですね‥‥しかし、その前に」
 彼女に向けて、イクシアはそっと掌を差し出す。
「自分‥‥と、一曲踊って頂けますか?」
 腕の中の子どもと差し出された掌を交互に見て、少し慌てた様子を見せるソラージュ。そんな彼女へ、オールージュが素早く近づいて。
「よかったら、見ているわよ」
「有難い‥‥です」
 イクシアが頭を下げると、オールージュはにっこり笑ってソラージュの背を押す。
「‥‥」
 頬を薔薇色に染めながら、ソラージュが掌を重ねた。2人の指に填まった指輪が力を発揮し、途端に華麗な幻影が姿を表す。青薔薇と燐光に包まれ、2人は美しく舞い踊り始めた。
 感動に声を上げる我が子の声を聞きながら、イクシアはソラージュの細い身体を引き寄せた。
 ――結婚の際。
 ソラージュは、イクシアの護る領地に、そこに生きる全ての人々に幸せになってほしいと言った。
 そして今日に至るまで、その言葉のとおりになるよう尽力している彼女の姿は、イクシアに勇気を与えていた。
 彼女の想いに、報いたい。全てを幸せにしたい。彼女の言を聞いた瞬間に生まれたイクシアその想いもまた、今日まで‥‥これからも、変わることはない。
「貴女のおかげで自分は、強く在れます」
 そう囁けば、ソラージュもまた笑って告げる。
「イクシアさんは、いつまでも私の篝火です」

●女王の貫録
「クールなのー♪ ひさしぶりなのー♪」
 木の実を片手で抱いて、もう片手でクール・ハートドライヴ(xc2290)に飛びつくトロ。講堂に入るなり熱烈な歓迎を受けて、クールはちょっと照れ笑い。
「え、本当に? クール? ‥‥クールー!」
「ルイスー!!」
 そしてルイス・フェルタール(xc2294)も飛んできて。2人はトロを間に挟んだまま少女のような笑顔でがっちりと抱き合い、ぴょんぴょん跳ねて再会を喜び合った。
 およそ1年ちょっとぶりか。
「どう、元気にしてた?」
「うん。今までマスターの名の下に流派ツッコミ不敗を広めてたんだけど――」
 ツッコミ神と仰ぐ先輩と、お笑いで世界を覆うべく活動を続けてきたクール。師匠は時に厳しく、旅は時に過酷で。それでも大いなる目標のためならばいくらでも頑張れると、気力の限りに生きて来たのだ。
「ちょ、ちょっと待っ‥‥あなた一体何やってるのよ!?」
「これからも頑張るよ☆」
 生き様そのもので全力でボケているような話だが、ルイスの変わらないツッコミはそれを更に輝かせるようだ。嬉しそうに笑うクール。
「でも今日ぐらいは息抜きしてもいいよね。ルイスちゃんは? 最近どうしてたの?」
「え、私? 私はね、孤児院頑張ってるわ」
 ルイス自身も孤児だった。だからだろうか、行き場のない子どもたちを守るための力になることを志したのは。
 言った後、何となく少ししんみりしてしまった。いけないいけない、楽しい場なのに――急いで空気を変えようとしたルイスの前に、ひょっこりと現れるギアッチャーレオのぬいぐるみ。
「やぁやぁ元気なようで何よりだね!」
 フレイル・ライル(xb7283)だ。
 パペットの魔法でぬいぐるみの『ぎあっちゃさん』や、DGSの力で作り出した動く絵を動かして。
 くるくる躍るぬいぐるみに笑った後、ルイスもまた同じ魔法で手持ちのぬいぐるみを躍らせた。ネコのぬいぐるみ――にゃんたんだ。
「久しぶり、フレイル! フレイルは今、何を?」
「私かい? 私はローレックで玩具屋さんをしているぞ♪」
 悪戯錬金から可愛いぬいぐるみまで。主な顧客は学生や、街で暮らすちょっと茶目っ気のある大人たち。
 遊び心のある魔法の玩具を子どもに買い与えては楽しそうに輝く瞳を眺める親、そんな親を眺めるフレイル。
 幸せを商う店が、そこにはあった。
「いつでも寄ってくれると嬉しいな」
 目を細めるフレイル。
「あら、集まってるじゃない」
 そこへミント・スカイイースト(xc0280)、更にはジェルトルーデ・ルフェーブル(xc0272)もやってきた。
 ジェルトルーデは借りたドレスで華やかに装い、大層美しい。どこの社交界から淑女が飛び出してきたのかと、給仕係の学生たちが頬を染めてしまうほどの美しい出で立ちだ。
「久しぶりですの〜。ほえほえ」
 そして相も変わらず、口を開くと色々台無しだ。
「箱のお話、聞きましたの〜」
 自分が遺したプレゼントを、子孫が受け取ることもあるかもしれない。その事実に、ジェルトルーデは甚くときめきを感じているようだった。
「それはロマンですの〜。どっきどきですの〜」
 頬を染めた彼女は、気に入りの耳飾りを入れたのだと語る。
「私はマヤ姉にせがんで貰った火鼠の皮衣を入れたわ。みんなは?」
「私はちょっとかわいくないけど、武器を入れたよ」
 ミントに促されて、フレイルも続いた。どの時代にも困難は付き物。だから未来に箱が開けられた時、手にした誰かが大事なものを守れるように、と。
 そうして各々、自分が入れた物と想いを吐露し、そこから近況報告へとなだれ込んで‥‥。

(‥‥あ)
 そんな和気あいあいとした様子を、バードチャームで窺う人物が1人。
 かつての友人たちの姿に、彼女は思わず心を揺らす。特に、友人として想い合っていたジェルトルーデの姿は、とても眩しいもののように思えた。
 出ていきたいという願望も少しだけ湧いたが、
 だって、自分はいない筈の人間だから。
 ――ハクノ・ワンディーランド(xc1010)。彼女は死んだはずの人間だった。
 デュルガー王との戦いのすぐ後、下級生を庇って崖から転落。遺体は川に流されたか何かで見つからず、生死不明として処理されて。それきり戻って来なかったから、形見分けもされていた。
 だから公的には、彼女はもう死者である。そう思っていた。
 ――同窓会の報せが届くまでは。
 実際、ハクノの生存が知れているかどうかは微妙なところであった。1016年、リムランドの山岳地帯でハクノらしき人影が見えたという報から、学園はそれらしき影を追いかけて、告知の手紙を方々に出したに過ぎないのだろう。
 だがその手紙は実際にハクノの目に留まり、彼女をこの地に招くことに成功した。それにはシフールたちの不思議な力が用いられていることは想像に難くない。
 どうせ間違った者に告知が届いたとて、卒業生でなければ受付で概ね門前払いだ。学生証やプレートという便利な身分証が、学生たちにはあるのだから。
 だからきっと、あてずっぽうだ。自分はちゃんと公的には死んでいて、この手紙も正体不明の誰かさんにとりあえず送ったに過ぎないのだ。多分、きっと。
 ‥‥何度そう自分へ言い聞かせても、もしかしてと思ってしまうのがこの学園の怖い所でもあるのだけれど。
(まあ、どっちみち‥‥変わらない)
 ハクノは死んだフリをしたのは、盗賊活動のため。そして自分に技術や教養を学ぶ機会を与えた学園に迷惑を掛けないためでもある。
 彼女の足取りを知っているのなら、学園とて深入りはしてこないはずなのだ。
(‥‥)
 生死を知られていようが――どっちみち変わらないのだ。
 ハクノは思い切って、学内に足を踏み入れた。魔法の変装セットと磨いてきた技術で会場へと侵入し、彼女は同級生たちの下へとひっそり近寄った。
 姿が見えるところまで来て、そこから徐々に声が聞こえるところまで近づいて‥‥。
「ちょっと、だからもうツッコミ女王じゃないってば!」
「大丈夫よ、安心して。これでも吟遊詩人希望なの」
 ルイスの慌てた声が響くと、親指をグッと力強く立てて、ミントが言い切る。
「ルイスのツッコミのことも、美化マシマシで騙っちゃうから!」
「それ全く大丈夫じゃないからね!?」
 ツッコミ女王のキレは現役だ。
 笑顔の輪が生まれ、明るい空気が蔓延して。ジェルトルーデもほえほえと笑っている。
 それをすぐ傍で聞いて‥‥ハクノは微笑んだ。

●新たに始まる物語
「ええっと、元気だったかしら」
「おう、変わりないぜ」
「今は何してるの?」
 質問の声が震えそうなのを、フィルムーン・グリステン(xa2372)は必死に押し留める。‥‥思わず薬指を確認してしまうことだけは止められなかったけれど、どうやらルーセントはフィルムーンのさりげないその行いに気付いてはいないようだった。
「普通にヴェルファイアの領地へ帰って、貴族の跡取りとして働いてる」
 ついでに
「け‥‥結婚とかは、したの?」
 何せ彼は貴族。見知らぬ誰かと突然結婚したっておかしくない。それに学園にいた頃は、アリッサなる少女と家同士の縁もあった。
 様々な可能性を考え、次なる言葉に備えるフィルムーン。
 だが――。
「いや」
「‥‥え?」
「何だ、意外か? 子どもが生まれない状況で結婚だのなんだの決められねぇからな」
 ‥‥言われてみれば、確かに。
 種としての未来を繋ぐ方法が分からない状態で、先々のことを考えるのはなかなか難しい。何がどう転び、家と家を結びつけることが必ずしもプラスにはならないかもしれない。暗中に生まれるそんな懸案は、貴族たちの動きを鈍らせたのだろう。敢えてを狙う家も中にはあるかもしれないが、少なくともヴェルファイア家はそうではなかったようだ。
「ほれ、もうすぐ子どもが生まれる方法だって確立されるだろ?」
 まだ見ぬその手段によっては、政略結婚の在り方も変わってくるかもしれない。
「俺ん家は、そこらへん慎重に考えてるみたいだ」
 理屈で返されれば、なるほど、とも思う。
 でも、そうじゃない。
 ‥‥そうじゃないのだ。
「気付いてなかったかもしれないけど、私ずっと貴方の事好きだったのよ」
「おう‥‥は?」
 青年の目が点になった。やはり気付いていなかったのか。
 それはそうだろう。フィルムーンの気持ちを知っていて、それでいて政略結婚だのなんだのと話していたなら、ルーセントはとんでもなく悪い男だ。長い説明はとどのつまり、機会さえあれば結婚していてもおかしくなかったということなのだから。
 別に、この恋の先を望むわけではないけれど‥‥あ、でも少しだけ。やっぱりルーセントが誰かのものになってしまう未来を考えたら胸が締め付けられるようだし、結局のところそれは今でも好きってことの証明だし‥‥。
 ‥‥とにかく。別に今は、先を求めているわけではなくて。
 ただ、言いたかったのだ。
「ふぅ、すっきりしたわ」
 そう言って、彼女は笑う。その表情は月下に咲く花のように儚げだけれど、同時に女性らしい強かな美しさをも秘めていた。
 用は済んだ。大好きな人の、間の抜けた顔も見られた。‥‥充分だ。
 金糸の髪をなびかせて、彼に背を向けるフィルムーン。
「なあ」
 だが、その背を彼は呼び止めた。
「何?」
 思わず振り返る。と同時に、相手の様子を見たフィルムーンは驚いた。
 ルーセントの耳は――真っ赤で。
「次、ローレックに来る予定は?」
 今度はフィルムーンが、目を点にする番だった。

●故郷の海へ
「それじゃあ、お二人ともお変わりないんですね」
 ツィーガル・スライファー(xc1307)は近況を淡々と語り、ギルバ(xd0563)は嬉しそうに最近のことを教えた。
 表情を綻ばせながらそれを聞くソフィア。
 だが、ツィーガルの視線はソフィアの抱える荷物に注がれていて‥‥。
「それは?」
「あ、夕方の授業で使うものなんです。実験器具と、使用法が書かれた羊皮紙と」
 教室に置いておくべきもので、必要となるまでにはまだ時間はある。
「預かろう。教室の場所を教えてくれるか」
「いえ、でも」
「構わない」
 荷物は在るべき場所へ迅速に運ばれているべきだし、それに――。
「少し、学内を見て回りたい。」
「俺も手伝うな!」
 上層に載せられていた羊皮紙を無理のない範囲で持ち上げて、ニッと笑うギルバ。
 そこまで言われてはと、ソフィアは残りの荷物をツィーガルへと明け渡した。
 置くべき教室の場所を聞くと、2人は悠々と会場を出ていき‥‥。
 ツィーガルの言葉はどこからどこまでが建前だったのだろう。何にせよ、実直な性質には変化がないようで、ソフィアは少し嬉しくなった。
「みんなは‥‥?」
 飲み物を取って帰ってきたタンドールに事情を話すと、「彼ららしい」と同じ感想を抱く。
「本当に、皆さん変わりなくて」
 笑顔の彼女たちのところへ、優しい音楽が届く。ダンスに添えられた歌だろうか。明るく優しく――そしてその中に紛れる、心を疼かせるベルの音。
「――‥‥」
 何となく、タンドールを見上げるソフィア。その視線の熱に応え、タンドールは彼女をダンスフロアへと連れ出した。
 2本の足でのダンスは、何だか久しぶりだ。くるくると軽快に踊り回れば、景色もくるくる巡って行って、何だかここが2人だけの空間のようだ。
 手の温もりが心地いい。至近にある彼女を見つめれば、白い肌の隣に、淡い虹色をたたえた貝殻の耳飾り。それはタンドールが先ほど、土産としてソフィアへ贈ったものだ。
「それぞれの道を選んでも、またこうして集える今日に感謝を」
 心からの想いを口にする。だが、その言葉にソフィアは「んー」と少し考える素振りを見せた。
 何かおかしいことを言っただろうか。
「恩返し、思った以上に大変です。でも、ちょっとだけ気持ちが追いつきました」
 だから、とソフィアは悪戯っぽく続ける。
「タンドールさん。今度、あの約束‥‥あなたの故郷へ‥‥連れて行ってくれませんか?」
 ――それは、つまり。
 ソフィアは薄く頬を染め、笑っている。その表情は不思議とタンドールへ過去を思い起こさせた。
 全力で海水を掻き分けるソフィア。大人しく見えるようでいて、実は活発だ。
 その時と似た、少し悪戯っぽいような、それでいて真摯なような。
 吸い寄せられるように口づけを交わして、タンドールは思う。
 故郷で見るこの笑顔は、きっととても美しいことだろう。

●フット部、吹っ飛ぶ
「カールナ! 元気かしら?」
「ロゼッタん」
 友人の姿を見つけ、破顔するカルナ。貴族である彼女の所領を訪れることもあり、そう間が空いているわけではないが、それでもやはり元気な姿を見られれば嬉しいものだ。
 何やら手を伸ばしかけて‥‥すぐにやめてもじもじ。
「どうしたの?」
「いえ、何となく」
 ベリルの問いにも、堪えに窮する。
 ‥‥はしゃいで飛びつくのは、何となく自分のキャラじゃない気がして。
「変な遠慮してんじゃないわよ」
「あたたた」
 頭をわしわしぐりぐりされて、カルナは何だか嬉しそうだ。
「よー」
 そこへハーシェル・グラフ(xz0025)もやってきた。微妙に歯切れが悪そうなのは、何となく気恥ずかしいからだろうか。
 ハーシェルの様子を窺った後、「ふぅん?」と訝しげな声を出して。
 そしてロゼッタは尋ねる。
「そういえばハーシェル先生、まだフット部の顧問やってるの?」
 悪戯っぽい赤い瞳が、くりくりと動く。

 数十分後、ハーシェルは爆笑していた。
「普通やるかね、その格好で」
「普通じゃないことくらい知ってるでしょ」
 薔薇を模したドレスの裾から、細い足が伸びて。その先端はボールを踏みつけていた。
 在学中の現役フット部員、それとベリルにカルナに‥‥みんなで試合に興じたのだ。みんな、別に然して上手くはないのだけれど、それでも鼻に泥を付けたロゼッタとか、失敗して崩れ落ちるカルナとか、やっている者も見ている者も楽しい時間だった。
「なんだか昔を思い出して、楽しくなって来たわ。花丸をやるぜ」
 言葉どおりに空中に指で花丸を描くと、ロゼッタは満足そうに微笑む。
 だがその顔は、すぐに疑問で埋め尽くされた。
「ねえ、それにしてもみんなの視線が気になるんだけど。‥‥何?」
 フット部員は試合中から、何故か彼女のことを知っている素振りを見せていた。だが、ロゼッタには彼らの顔は全く記憶になくて。
 その疑問に応え、女子部員がこっそりロゼッタを呼ぶ。
 招かれるままに連れていかれたのは部室裏。そこはどうやら、ハーシェルの私物が置かれているらしかった。
 元々ノルンへ深い敬愛を捧げていたハーシェル。女神の長が元はヒューマンだったと聞いて、「やっぱりコモンは素晴らしい」と信仰の表現を少しだけ変えた。
 要するに、彼の作る女神像はコモンらしさを増したのだ。彼が生み出すものは神聖な表現から、活き活きとした表情へと変わっていった。
 そして、その変遷の中で。
「あ、ロゼッタちゃんだー」
「――」
 ベリルの言どおりだ。ロゼッタの頬が、真っ赤に染まった。
 沢山の習作の中に、自分としか思えないような、巻き髪の美しい女神像があったから。
「流石に照れくさいんですけど」
「まあ俺も照れがぶり返してるんだけど」
 髪をくるくる弄ったり、頭を掻いたり。もぞもぞと身じろぎしたくなるような空気が流れて――。
「‥‥ありがと」
 ぽつりと言う彼女は、どこかしんみりとした空気を纏っていた。
「‥‥」
 何となく、押し黙る。
 彼女の様子に、ハーシェルは悟る。
 彼女は‥‥『何か』を抱えたのだ。悩みとか、哀しみとか、そういう何かを。
 すぐに分かった。だって、ハーシェルは教師なのだから。
 だから、ハーシェルは‥‥。
「またいつでも来いよな」
「‥‥」
 ロゼッタは紅の瞳を幾度か開閉し、やがて。
「ありがと、先生!」
 泣き笑いのような顔で、ハーシェルの背中をべちんと叩いた。

●緊張
 これから特別講義に向かうのだという学生たちを連れて、門へと向かうアーク。
 前からは、何だか見知った鎧が歩いてくる‥‥。
「デュークじゃないか。なぜ外に?」
「‥‥部活で外に出る後輩の面倒を見ていた」
 苦々しい表情を浮かべるデューク。
 浅かった眉間の皺は、しかし次のアークの言葉を聞いた瞬間思い切り深く刻まれる。
「それにしては随分早いな。逃げ帰って来たのか?」
 ‥‥空気に、ヒビが入る音が聞こえた。
 俄かに沸き立つ殺気。ぞわぞわと産毛が逆立つような感覚に、両者の後ろにいる学生たちは戦慄する。
「兄弟喧嘩は他所でやるがよい」
 しかし呆れかえったサラサ・ユラ・トリーティア(xa3326)の声で、緊張は急激に弛緩した。
「安い挑発だ。いいだろう、帰ってきたら相手をしてやる」
「構わん。また俺が勝つ」
「――」
「ほれ、行くぞ!」
 またも高まりかけた緊張をサラサが強引に押し流すと、学生たちは半泣きで各々進むべき方向へ走り出した。

●教える者
 冒険に出る学生たちは2班いた。指導に赴いた学生は4人だった。2人と2人に別れ、それぞれが教師の代わりに学生たちを指導する。

「あれはティートロールさんです」
 現れたモンスターを前に、ミラベルがぽつと呟く。
 どんな特性があり、何が苦手で、どう戦えばいいか――その説明の前に、ミラベルは魔法の指導を考えたようだ。
「パドマさんの攻撃魔法は範囲が広くて乱戦で使いにくいです」
 そう言った後、凄まじい速さの詠唱が行われ‥‥ヴィンドスヴァルが吹き出した。それは学生たちを巻き込むもので、彼らは心底びっくりした顔でミラベルを見た。
 だが、本来のミラベルの力であれば、びっくりなどしていられない。身体が凍えきり、深手を負っていたはずだ。
「ですけど、効果縮小と効果上昇を上手に組み合わせればとっても効果的にモンスターさんを鎮圧できます」
 そう言って、またも詠唱。今度はとても狭い範囲に、ヴィンドスヴァルが吹き荒れた。それは狙いどおりにティートロールを巻き込み、本来の威力でもって相手を凍えて唸らせた。
 ――効果縮小。任意で魔法の姿かたちを歪められるこの補助魔法は、戦略の幅をぐっと広げる優れたものだ。今までその有効な使い方が分かっていなかった学生たちが、ほうほうと目を輝かせる。
「味方の手の内はしっかり知っておかなきゃならない」
 ミラベルの言説を、シルトが受け継ぐ。後ろにパドマを擁する時などは特にそうだ。迂闊に前へ出たら最悪巻き込まれかねないことはミラベルの言うとおりで、上手くやればそれを回避できるのもそのとおり。だがそれと同時に覚えておきたいのは、パドマたちに負担を掛けない立ち回りを、前に出る者たちは意識できるということ。
 だが、やってみろと言われて動き出す学生たちは、熟達したシルトの目から見るとどうにももたもたとしていて――。
(やきもきするな‥‥私達も先生方にこんな思いをさせていたのか?)
 武器の扱いから何から、ひとつひとつがたどたどしい。
 だが、それを見ても苛立ちなどは感じなかった。寧ろ、見えた粗を教えてやれば‥‥と、彼らの伸びしろに期待を感じる。
(‥‥いずれローレックに定住したら、その時は教師になるのもいいかもな)
 ぼんやりとしたその想いは、近い未来に現実となる。

●決意を燃やす者
 アークとサラサが付き添ったのは、授業ではなく戦術・戦略研究部の部活動だった。群れを成して近隣の街を襲う邪鬼を倒すというもので、若い学生たちを多く連れての大規模戦闘だ。
 指揮を学んでいるという貴族出身の学生へ、アークは自らの経験を交えて指導する。
「1人が他人を導く理由は、他の者たちを総合して判断する力量を持つ者が要るからだ。まず全体の把握を――」
(ふむ)
 出立時にデュークと揉めていたときはどうしたものかと思ったが、指導内容はそれなりにマトモなようだ。サラサは安堵し、学生たちを見守る。
 余程のことが無い限り、サラサは敵の掃討は後輩たちに任せるつもりでいた。あまりあれこれ手を出し過ぎては、反対に成長を阻害しかねない。
 ‥‥と、思っていたのだけれど。
「弓に関して、教えていただいてもいいでしょうか!」
 学生の1人がサラサへ向けてそう言うと、我も我もと学生たちが寄ってくる。
「な、何じゃ? 他人を頼るより、まずは自分たちでやるべきではないかの」
 狼狽を隠して毅然と返すと、学生たちは面喰ったような顔をした後、しゅんと肩を落とす。
「そっか‥‥残念だな。その妙技を見られると思ったんだけど」
「ラナ先生から、とても優秀な学生だったと聞いています。どうしてもご指導いただくわけにはいきませんか?」
「‥‥」
 他者から自分の評判を聞くというのは‥‥何ともむず痒い。
 期待の篭った熱い眼差しに、やがてサラサは根負けした。
「あー、よい。よい。分かったから」
 仕方なく、サラサは弓を取る。ついでにホーキポーキの学生を呼ぶと、彼女はそれへシューティンググラスを掛けてやった。
「!」
 練度の高いそれを得た学生は、繊細な調整の利きやすくなった身体に驚く。
「それが、修練の後に至る先じゃ」
 熱心な彼らなら、いつかは魔法なしでも素晴らしい精度を得ることができるだろう。
 未来を垣間見たかのような感覚に、学生たちは喜び――サラサもそれを、どことなく微笑ましい気持ちで見守った。

 やがて邪鬼は鎮圧され、巣となっていた洞窟は効率的に占拠された。
「しかし‥‥」
 難しい表情を浮かべるアークに、サラサはどうしたのかと問う。戦況を正しく把握し、指揮も適格。個々の活動もサラサのおかげで危なげなく執り行われて、たいへん良い成果だったというのに。
「今回の戦いのことではなくてな。一将として様々な戦場を駆け回って早四年――」
 デュルガー王が消え、多くのデュルガーたちもまた消えて。コモン全ての大敵は今、その多くが形を潜めている。凶悪な事件は減ったからだろうか。コモン同士の争いが目に付くようになってきた。それは平和になった証拠とも取れるが、アークにとっては違うように思われた。
「戦禍での被害を少しでも抑えるには外敵は必須だったのだろう」
 コモン全体にとっての、共通の敵。
 もしも正しき平和のために、それが必要だというのなら。今までの活動で得た全てを用いて、或いは擲ってでも――。
「俺自身が厄災の魔王としてコモンの敵となる事を決意すべきかも知れんな」
 うんうんと頷くアーク、それを見つめ、サラサは頬を掻く。
 ‥‥まあ、民を導く貴族として、言わんとすることは分からんでもないけれども。
「何と言うか‥‥変わっていないようじゃな」
 乾いた笑いを浮かべて、サラサはアークの言説を聞いていた。

●私の先生
 一通り学内を周ると、リプレはティティリアたちと別れてある場所へ向かった。
 グラウンド。
 そこで、箱へ物を入れる卒業生へ面倒くさそうに案内をしている‥‥。
「ウンザリーさんっ」
「うおっ」
 背中に抱き付くと、ウンザリー・サンド(xz0113)は驚いた拍子に煙草を落っことす。自分がやったくせに慌てるリプレ、ウンザリーは苦く笑ってその頭を撫でた。
「友だちとはもういいのか」
「うん、また遊ぼうって約束しました」
「そうか。もうすぐ交代の時間だから、そしたら会場に行って俺も何か食う」
 わしわしと髪をまぜっかえすと、リプレは乱れた頭頂部を抑えて呻く。
 ――リプレの卒業を待って、少し後。2人は結婚した。愛の証はリプレの指に、静かに輝いている。
「あっ、ウンザリー先生いたー!」
 その時、明るい声がグラウンドに響き渡る。クールとルイスが連れ立って、ウンザリーの下へ挨拶にやってきたのだ。
「お久しぶりでーす、先生!」
「ウンザリーパパ、お小遣いちょうだい☆」
「おいおい」
 人気者の教師は、卒業生と話しながらもリプレの頭から手を退かさない。
 それが少しくすぐったく、嬉しかった。

●あなたと選んだ未来
「リプレ、指輪してたのよ。結婚したんだって、嬉しくなっちゃった」
 嬉しそうに目を細め、ティティリアは自身の伴侶を振り返る。
 彼女はリースと共に、寮生活サークルの部室を訪れていた。
「同窓会って、こっそり意中の人と抜け出すのがお約束って聞いたのよ」
 大規模な学び舎というものはローレック・ルミナ・スクールにしかない。にも関わらず、この娘はどこからそんな常識を仕入れてくるのか。
「ここでいっぱいお喋りしたね、二人っきりで、たくさん!」
 くるりと踊るように振り返って、ティティリアは笑う。
「わたくしね、リースの音を後世に残したかったの」
 それは、先程箱の中に入れたモノの話。
 音を閉じ込める魔法の道具。最愛の人が奏でた音を、ティティリアは閉じ込めたのだった。
「あなたの音には、聞く人を変えて、幸せにする力があるから」
 妙に実感の篭った言葉は‥‥実際に自分が、変えられたから。
「あなたと出逢わなかったら、わたし、きっと普通の女の子だった」
 ティティリアは神職の家の出だ。もしも彼と出逢わなかったら、少なくとも踊り子という未来を選ぶことはなかっただろう。
「表現の楽しさも、音に身を委ねる心地よさも、みんなあなたが教えてくれたの」
「それは‥‥それなら。陳腐な表現ですが、よかったと思います」
 リースは静かに笑う。
「ティティの踊りは綺麗ですから」
 言った後、癖のようにフードを弄るリース。その中身を覗き込むように、ティティリアは彼の胸元へ飛び込んだ。おや、と小さな声を上げた後、リースはティティリアを抱きしめ返す。
 ‥‥海の中とは違う。水気を纏わない布の温もり。確かに背を抱く、綺麗な手。愛してやまない音を生み出すその指が、ティティリアの背を撫でている。
 大好きとか、愛してるとか。適した言葉がありすぎて、定めきれないけれど。
 それでも、口を付いて出た言葉は――。
「ありがとう」
 神様は嫌いだった。それは生家で、ティティリアを縛るものだったから。
 でも、あなたと出逢えたことを、神様に凄く感謝してる――‥‥。

●とあるダーナが年貢を納めた話
 箱へ望みの物を入れ終わり、懐かしさからグラウンドを眺めまわすレミフェア。
 すると、その中には見知った赤毛が‥‥。
「ラディウスさん!」
 ぶんぶん手を振ると、相手もこちらに気付いたのか、軽く手を挙げて歩み寄ってきた。
「よぉ、久しぶりだな、レミフェア。母ちゃん業は板についてきたかい?」
「えへへ、まあまあかな? ラディウスさんは?」
「ん? 俺も元気にやってるぜ」
 教師カミーユ・ダルラン(xz0026)と結婚したこと、部活の顧問担当から諸々あって正式に学園の教師になったこと、娘が相変わらず暴れ回っていること、義息ができたこと‥‥近況を諸々伝えると、レミフェアは目を真ん丸にして聞いていた。ロビンズ・ブルー(xz0043)が義理の息子に? 子どもまで設けた? つまりラディウス・トゥムラー(xz0061)は今おじいちゃん? 激変した環境は、何だかとても新鮮だ。
 レミフェアもまた自分の近況を聞かせると、ラディウスは頭をばりばりと掻いて。
「なんだ、子供の顔も見せりゃあいいのに」
「たまには羽を伸ばす時間も必要なんだよ」
「ふうん、ま、そんなのも必要かね」
「うん! ラディウスさんも、たまにはカミーユ先生にのんびりさせてあげなよ!」
「たまにはな。‥‥また顔を見せな」
 武骨な指先が、レミフェアの金髪をわしゃわしゃと掻き混ぜる。まるで子どもに対
するような扱いに、彼女はえへへと小さく笑った。

●素直さへの憧れ
 ――思い出は、時に胸を刺す。
 グラウンドの片隅、ロゼッタは箱に物を投じる人々を眺めて‥‥風になびく巻き髪を抑えた。
 ここは伴侶と――もうすぐ病で命を落とす彼と出逢った、思い出の街。
 愛する人にすらいつまで経っても素直に甘えられなかった、そんな思い出がいくつも眠る街。
 だがロゼッタは気づいていた。この街には、変わらず自分を迎えてくれる人がいる。彼女にとって帰るべき故郷のひとつでもあるのだ、と。
 じんわりと浮きかけた涙を振り払って、ロゼッタは投じた包みを想う。
 あれを受け取る人は、どうか。
 どうか、自分の心に素直なあなたでありますように。

●ありがとうの別離
 学生たちの指導から帰ってきたミラベルは、箱の前に立っていた。
「ずっと愛用していたこのお洋服も卒業です」
 最後にぎゅっと抱きしめたのは、賢者の名を冠する錬金制服。着用者に聡明さを与えるその衣服は、モンスターの知識を得ようと西へ東へ奮闘していたミラベルにとって相棒のようなものだった。
 懐かしさと、愛着と。この衣服を箱に入れることは、ミラベルにとってはそれらからの離別‥‥否、卒業に等しい。
 綺麗に畳み直して布で包み、担当の学生へ渡す。
「開かれるその日の子孫のために役に立ってくださいです」
 祈るようなつぶやきが零れる。
 ――わたくしの可愛い子孫が、素晴らしい叡智に恵まれます様に。

●輝く魂
 グラウンドの箱に望みの物を入れたアルストラとラスティアは、息子のヒューを間に挟んで手を繋ぐ。
 子どもの掌は、小さくて温かい。それを殊更に感じるのは、まだ春に至っていないからか。
 桜の蕾はまだ固く、花が舞うのはあと少し先だ。
「こうして一緒に歩いていると、学生の時のこと思い出しちゃう」
 4年前の今頃は、暗い気持ちが溢れていた。遂に復活したデュルガー王。迫る決戦の重圧は、戦うために学び舎へ通い詰めていた学生たちの両肩に重く圧し掛かっていた。
 でも、もうそれも昔。
「大変な戦いもあったけど、楽しいことも沢山あったね」
 あなたと出逢って、たくさんの思い出を作った。
 仕方ないことだとはいえ子どもを抱えての学生生活は最初はとても、とても大変だったけれど‥‥アルストラがしっかりと支えたことで、無事にラスティアも卒業もできた。
 ローレックに居を構え、夫婦と一人息子の3人で、巡る季節を幾度か眺めて――。
「たくさん、なんかあったの?」
 そして興味深々な我が子は、とても、とても可愛い。ラスティア似の髪色とアルストラにそっくりな瞳の色。顔つきは‥‥どちらにも似ているように思える。
「君やこの子と幸せを紡いでこられたように」
 ――これから先にも。
 目線を合わせて微笑み合うと、2人は繋いだ手を、せーので持ち上げる。
「わー」
 間に挟まれたヒューが高々と舞い、きゃっきゃと楽しそうに笑った。

●君は俺のもの
「ユアン講師なら、箱に何を入れますか?私の大切なものは仕舞えないもので‥‥」
 箱へ思い出の物を入れに訪れたセーユとユアン。双子の娘たちは、フィザルやシューリアに一時的に見てもらい、入れる物を考える。
 娘たち、ユアン、そして仲間。みんなみんな、箱の中に仕舞えはしなかった。傍にいてほしかったのだ。
「よかったら一緒に入れましょう! 子孫へのメッセージもついでに一緒に入れて」
「そうですね」
 娘たちには、先程お手紙を書いてもらった。ユアンもまた、日々使いこんできた魔法の杖を入れるようだった。そしてセーユは‥‥うんと悩んで、愛用していたお医者さんバッグを。
「ユアン講師、この箱が残るように、私達もずっと一緒ですよ」
 微笑んで見上げる。すると一瞬、彼は虚を突かれたように黙り込み‥‥そして。
「ユアン、ですけど」
「え? はい、知ってますけど」
「‥‥」
 突然自分の名前を言って、何を言いたいんだろう?
「いえね、今更少し気になったんですよ、その『講師』って呼び方が」
 言いながら、ユアンはセーユの頬をぐにっと摘まむ。
「ふぇ?」
「ほら、セグナス君とか、教師を妻にしても先生とは呼び続けていないでしょう?」
「ふ、ふぁい、そうでしたね」
「まあ別にいいですよ、ユアン講師、で。無理して変えなくて」
「ふ、ふぁい」
「‥‥ただ」
 一拍置いて、ユアンはにやりと笑う。
「君にとって『講師』でも、俺にとって君はもう学生じゃないんで」
 ――既に君は、俺の愛しい妻なのだから。
「それだけ、憶えといてください」
 低い声で囁くと、噛みつくようなキスを唇に、一瞬。
 顔を真っ赤にしてへなへなと崩れ落ちるセーユの頭をポンと撫で、ユアンは飄々と双子を迎えに行った。
 ‥‥みんなの前で様子が変だったのはそんな些細なことを気にしてか、とか、いつもぶっきらぼうなのに何で急にこういうことするの、とか。色々言いたいことは山ほどあるけれども。とりあえず、不機嫌にさせたわけではなかったようだ。寧ろこう‥‥何だろう、やきもち? みたいなもの?
「‥‥ユアン講師〜」
 呻くように声を零して、セーユも彼の後を追い駆ける。
 掴みとった幸せは、これから先も、ずっと、ずっと――。

●芽吹いて育って
 パンダと一緒にお散歩するダリウスとすれ違って、ロサベル・ガードナー(xb7495)はくすっと笑う。街中を歩いているだけで珍妙な光景に出逢えるというのは、何だか凄くローレックの街、という感じがする。
(こうしてのんびり歩くのも久し振りね)
 歩くことが、ではない。そもそものんびりすることが久しぶりなのだ。穏やかな心地で視界の変遷を楽しみながら、ロサベルは石畳の上で靴を鳴らす。
 普段は農業やら酪農やら、獣医やら樹医やら。更に、どうしても必要な場合はダーナとして戦うこともある。それだけの知識と才を秘めた彼女を周囲が放っておくはずもなく、のんびりなどどうしてできようか。だからこの時間は、彼女にとっては開放的なものだった。
 街を歩けば気に入りだった店が変わらずそこに佇み、久々に買い食いした軽食は何だか少しだけ味が変わっているように思えたり。
 そうして街並みを眺めまわした後、彼女の足は部室棟へ向かう。
 園芸部‥‥入らせてもらえるだろうか。卒業記念で植えた樹は、ちゃんと育っている?
 不安と期待を抱きながら歩くと、どこからか喧噪が聞こえてきた。
 学生たちのものだろう。みんなで騒がしくも楽しい時間を過ごしているのだろうと思ったら、何だか胸が締め付けられるようだ。
『ロサベル』
 みんなが、名前を呼んでくれた。温かい空気に包まれていた。
『ロサベルちゃん』
『おーい!』
「ママにゃー」
『ロサベルー』
「ママー」
 ‥‥待って。
 何か変なものが混じっている。ママと呼ばれた記憶はない。
 語尾が「にゃー」の子どもを持った記憶もない!
「ママにゃー」
 追憶から帰ってきたら、目の前には小さな影。ただし、顔はロサベルそっくりで‥‥。
「‥‥カミーユ?」
「あっ、ばれるの早いにゃー」
 ロサベルそっくりの顔は剥がれる。ミミックマスクだ。そして中から出てきたのはカミーユ・ウェーバー(xb6779)の悪戯っぽい顔。
「ロサベルちゃんを見かけたなら、そりゃもう『突然知らない間に子供が!?』的アピールをせざるをえないにゃー」
「カミーユ」
「冗談にゃー怒らないでほしいにゃー」
 誤魔化し笑いでてへぺろ顔のカミーユ。あまりにも悪びれないから、怒る気も失せてしまう。
「ボクも大人になったからにゃー、やりすぎ注意くらいはおぼえたにゃ、多分」
 まあ、確かに在学中に比べたら大人しい悪戯な気が、‥‥しないでもない。
 ともかく。
「これから園芸部を見に行くところなの。‥‥一緒に行く?」
「行くにゃー! ロサベルちゃん、その後ご飯でもどうかにゃ? 会場には行くのかにゃ?」
「私は――‥‥」
「あ、そうそう、タイムカプセルに何いれるのかにゃ? ボクは子孫に役立つ物をいれるにゃよ!」
 矢継ぎ早に繰り出される質問は、明らかに興奮が滲んでいて。
 ‥‥そんなにはしゃぐほど、自分と会ったことを喜んでくれていると思うと。
「‥‥ふふ」
「あ、ロサベルちゃん笑ったにゃ? でも今はまだボケてないにゃー」
 不満げにするカミーユが余計に可笑しくて、ロサベルは遂にはくすくすと声を上げて笑い出した。

 この後、ロサベルは見る。
 順調に育ち続ける思い出の樹を、てきぱきと働く後輩たちの手を。
 そして、思い出の詰まった校舎と、そこに弾けるたくさんの笑顔を。

●改めて、新しく
 ファーエルとジンライ、サジ、そしてプニも。それぞれ、想いの篭った品を箱の中へと投じた。
「せっかくだからみんなで空の散歩にでもいく?」
 プニの提案。それは、ファーエルたちにとっては学生時代の思い出をなぞる行為でもあった。
「前に3人で空の散歩した時はサジとジンライはラブタンデムに相乗りしてたんだっけな。今回は‥‥」
「サジとプニがのれよ?」
「あ、ジンライさんお借りしても大丈夫ですか‥‥?」
 ジンライに差し出されたラブタンデムの箒を、サジが有難く借り受けて。
 そして2本の箒で、4人は空へと舞い上がる。春に至らない季節の風は少し寒くて、オックス湖の水の匂いがした。
「充実した学園生活だったなー!」
 空中で速度もあるから、少し大声で。ファーエルは言う。
 入学した年にデュルガー王が復活して‥‥4期生は、とても慌ただしい生活を強いられた。
 それでも初年度も、決戦の時が過ぎてからの3年間も、とても楽しい学園生活だった。
「いたずらもよくやったし、4人でいろいろでかけたし‥‥」
 ジンライもまた、ファーエルの言葉を受けて学生時代を反芻する。
 こうして会えて嬉しいと思える友人や、共に旅をするまでに絆を深めた相棒もできた。卒業した今も、ここに集う3人との絆は変わっていないと感じる。
「みんなの顔も、サジやプニの顔も見られて。帰って来てよかったよ!」
 ――そう語るファーエルの笑顔は、少し大人びて、それでも昔と変わらない快活さを秘めている。
 それを嬉しく想いながら、プニは視線を落とした。街を歩く先輩や同級生や‥‥そうした人々を眺めて。
(未来では、ここをどんな人が歩くんだろう)
 箱の中に、プニは一番思い入れのある服を入れた。アレがあればきっと未来の誰かがお腹を減らす心配もないだろう。
 どんな人が着るんだろう。大切に着ていた想いを受け継いでくれる人だったらいい――。
「‥‥プニさん、少しだけ高度を下げてもいいですか?」
「? いいよー」
 想いに耽るプニは、サジの表情に浮く、意思の色には気付かない。

 ゆるゆると高度を落としていくサジの箒。トラブルかと驚いて近寄ろうと舵を切るファーエルだったが、後ろのジンライがそれを押し留めた。
「やめとけって」
「え、でも」
「見ろよ」
 斜め上から見えるのは、サジの決意の篭った顔。
 不思議と、身に覚えがあるような。男2人で旅をしているものの、ファーエルにもジンライにも恋心を交し合う相手がいる。
 だから何となく分かる。そう、あれは――決断した男の顔だ。

 サジとプニ。2人は夫婦だ。学生婚が許されるようになったため2年生になってすぐ結婚をしたが、女神が消えるまでには子を設けなかった。多くの者たちが自然出産による子を成すために学生結婚をしたという中で、2人の選択はやや珍しいものだった。
 だからかもしれない。2人の間柄は、夫婦でありながらどこか恋人めいていた。
 けれど、そこから。
 サジは踏み出す勇気を持ったのだ。
「‥‥その‥‥あの‥‥プニさん。結婚、してくれませんか?」
「え?」
 ぽかんとするプニ。
 結婚なら、もうしている。
「あ、いや、あの‥‥う、うまく言えないんですけど!」
 彼の意識の中にはAOSの普及であるとか、色々‥‥本当に色々なことが渦巻いていたのかもしれない。だから、2人の関係も新しく前向きに進んでいくようにと――!
 とにかく。
 サジは伝えたかったのだ。これからの2人を、未来を、他ならぬプニと共に歩んでいきたいという、改めての決意を。
 そして、それは痛いほどにプニへと伝わった。
「ありがとうサジ」
 付き合いも長い。慣れたような自然な仕草で、抱き付くプニ。
 けれど、その胸には新しい、温かな胸の高鳴りが宿っている。
「世界で一番の幸せ者だね」
「幸せに、します。絶対に」
 プニの柔らかな身体を、サジはしっかりと抱き締めた。

●続いていく街
「お陰さまで商売繁盛、この通り元気ですよ」
 イゾルデ・キオネ(xc0047)へそう嬉しそうに語るのは、ウラミジーナ・シューネンコ(xz0106)だ。彼女が務める商店街の道具屋は日用品や文具など魔法の力を宿さない品々が豊富に取り揃えられており、今や多くの学生たちが好んで通う店のひとつとなっているようだ。
 彼女はタイムカプセルの話を聞くと、ひどく興奮した様子だった。
「卒業生じゃないですが、私も道具とか入れさせてもらって良いかしら?」
 イゾルデは、特に何かを入れようというつもりはなかった。
「何ならあたしの分、ウラミーさんに入れてもらおうかな」
 そう言ったなら、彼女はぱあっと顔を輝かせたものだ。

「イゾルデー!」
 自分を呼ぶ声を聞いて、イゾルデは振り返った。銀糸の髪がなびいて、氷のように煌めく瞳は快活な表情を捉える。
 近づく前から分かる。あの豪華な赤毛は。
「ノヴァ、それにショウも」
「久しぶり! 元気だったかー!」
「うん、変わらず」
「ヴェスは? まだ来てないのかなぁ」
 ここにいない友人たち――その中にはイゾルデの愛する人もいる――のことも話題に上る。
 世界各地に散っていたり、足取りが掴みづらい面々もいたり。同窓会の報せが期間内に届くかどうかは運次第。たまたま都合により来られない者もいるだろう。
「まだ見てないかな。卒業してからは年に一回、会ってるんだけど――」
 そうした面々とは、今回は会えないかもしれない。それは残念ではあるが、だからこそ今ここでノヴァやショウと会えたことに対しては、喜びもひとしお。
 そして、彼らの変化に対する感慨も、また。
「そっちは少し変わったみたいだね?」
「あ、うん。子ども‥‥家族が増えた!」
 イゾルデの記憶では、シーハリオン先端が消失して子どもが生まれなくなったあの時までには、2人は子どもを設けていなかったはず。だが彼らが連れている子は、どう見ても最近に生まれた子どもではない。ノヴァと手を繋いだその子は両の足で立ち、じっとイゾルデを見つめているのだから。
「びっくりした?」
「驚いたよ、凄く」
 ‥‥と、さして驚いていないような顔で言う。でも彼女なりの驚きは、友人2人にはしっかり伝わっているようだ。まるで悪戯が成功した子どものように、ノヴァとショウは顔を見合わせてにっこりと笑った。
「養子なんだ。ほら、アルセ。ちゃんと挨拶できるかな?」
「はじめまして」
 教えたとおりにぺこんと頭を下げる少年。その茶髪を、ノヴァは屈みこんで撫でている。偉いぞーよくできたー‥‥その様子は、すっかり父親だ。
「あたしたち、箱に物を入れ終わって、今から会場の方に行ってみようって話してたところなんだ」
「イゾルデは? 会場、一緒に行く?」
「うーん‥‥ううん」
 今は、もう少しだけ街を見て回りたかった。
 ゆるく首を振ると「そっか」「じゃあ、また後で!」‥‥そんな短い返事を残して、親子の足は会場へ向かう。
 イゾルデの靴先は、特に目的地も定めずゆったりと進んだ。
 たった2年、されど2年。卒業してから訪れる景色は、色々と違って見える。自分がいた頃にそっくりだけれど、何か違う――街並みを眺めるイゾルデに湧き起こる気持ちは、先程ノヴァやショウに抱いた感慨と同じものだった。
 懐かしさと、愛おしさと。さまざまな感情が、彼女の心を温かくさせるのだ。
 やがてその足は街から出て、オックス湖に向かう。
 ここは変わらない。太陽を跳ね返す湖面の上には、幾つものボートが浮かんでいる。この時期はまだ寒い筈だ。あれに乗る誰かは身を切る風に不平を言っているのか、それとも恋人と身体まで温まるような甘い会話を交わしているのか。
 そういえば、イゾルデ自身も彼と来たことがあったっけ――少しでも寒くないように、たくさん寄り添って。
「‥‥」
 誰にでも、場所には特別な思い出を抱く。
 そしてそんな想いを受け止めながら、街はずっと続いていくのだ。
(あたしたちのようにたくさん思い出を抱えた人を、旅立たせながら)
 連綿と続くその営みが、人にも、街にも――誰にとっても幸せであることを願う。
 風がイゾルデを撫でると、足元で煌めく木漏れ日が揺れた。日差しはまだ冬の色を伴っているけれど、やがて温かみを増すだろう。
(もうちょっとのんびりしたら、何か食べにいこ)
 大きく伸びをすると、雪の結晶を模したイヤリングがきらり、揺れた。

●音箱
 ギルバの竪琴がまず、ゆったりとしたルージアとフィルムーン、2つのリュートがぽろぽろと小気味よい音を奏で始める。
(さん、はいっ)
 口パクでそう言いながらノウリス・ヴァン・スラウス(xa8051)が片手を振り上げると、集った4人は一斉に歌い始めた。

 数多(あまた)の女神の加護を受け
 テーム河の流れ よどみなく

 精霊の導き 勇気で応え
 選ばれし者の 務めを果たすべく

 いざ輝かん 紳士淑女たれ

 みんなで作った校歌。
 フィルムーンが最高音を、ルージアとギルバがその下を務めて。最も低い音域では、ノウリスが懸命に喉を震わせた。
 想いを乗せて、心を込めて――ノウリスの持つ魔法の小箱へ向けて、全ての音は奏でられる。
 ‥‥ひと通り歌い終えると、彼らは小箱を動かしてみる。
 するとそこには、確かに先程の歌が封じ込められていた。
「声、裏返ってしまったかしら」
「そんなことはありませんよ。とても綺麗な高音でした」
「少しくらい音がずれても、心を震わせられればいいのよ」
 ノウリスの慰めと、ルージアの実感の篭った励まし。フィルムーンは小さく笑う。
「ご協力ありがとうございました。それでは私は、これを箱に入れたいと思います」
 深々と頭を下げ、魔法の小箱を大事そうに撫でるノウリス。
「これを、どんな人が聞いて‥‥どう、思うんでしょうね」
 できれば学園の校歌がどうして創られ、今どんな想いで歌われたのかも、全部が伝わればいい、と。
 そう零すノウリスへ、ギルバがハイッと手を挙げる。
「俺今でも詩人やってるんだ」
 自分が伝えられる限り、今日のことも、今までのことも伝えていきたい。
 忘れないで、憶えたままで。皆の未来のずーっと先まで。
 そう語るギルバの表情は、語り部という役割への希望や夢に満ち溢れ‥‥そして、ノウリスたちへ向ける優しさで輝いていた。

 担当の学生に包んだそれを渡して、ノウリスはほっと一息。そんな彼へ、ルージアはふと尋ねた。
「でも、いいの?」
「何がです?」
 彼がスキーや滑空に凝っていたことは周知の事実だ。なのに、それらに関連したものを入れなくてよいのだろうか。例えばエアボードなどは、箱に入れるのに適した品であるように思われるけれど。
 だが彼は笑う。
「入れる必要はないでしょう」
 きっと未来には、それらの技術は発展しているだろう。今の型を入れたところで、遥かな未来においての参考になりはしまい。
「そのためにも、一層の研究・発展に努めねばなりませんね!」
 嬉しそうにドラゴングラスを輝かせる彼。3人は何となく顔を見合わせ、笑う。

●フンドラハント
「またフンドラハントの日々の始まりだねー」
 たっぷり交流を重ねて、ご飯も食べて。最後に動物王国に寄って来てほくほく顔のベリルは、カルナと共に街を往く。
「この間は危なかったけど、何とかなったし。この調子で頑張っていきたいね」
「危なかったって、あれ勝ててませんよね?」
「逃げるが勝ち!」
 にゃにゃにゃにゃーん。『あの』ポーズで笑うベリルを見て、カルナは肩を竦める。
「そういえば、べりるんは箱には何を?」
 ふと好奇心から尋ねるカルナだったが、意外にも帰ってきた答えはまともだった。どうやら、戦鎖を入れたらしい。
「私の物置き部屋、ZENPAIとかカマラン一号とか迂闊に遺しちゃいけないアレコレとか多いしさ」
 そういうモノを入れるのかと思っていたので、ちょっと意外そうな顔をするカルナ。
「そういうカルにゃんは何を入れたの?」
「錬金素材を」
「‥‥もしかして」
 先日フンドラゴラの群生していた場所で拾った謎の草だろうか。あれは本当に大丈夫なんだろうか。未来の人へ密かに合掌した後、ベリルはきりっと気を取り直す。
「明日からまた旅だけど‥‥これからも頑張ろうね、カルにゃん」
「はい」
 ‥‥フンドラ遺跡を一緒に探索したり、時には離れて研究に勤しんだり。
 常時一緒にいる訳ではないけど、それでも誰よりもたくさん一緒にいる。
 なんだかんだ、2人はずっと仲良しなのだ。

●虹の掛かる未来
 フォーシャルは愛用していた剣を。リーラは、自分が作った思い入れ深い錬金品を。
 それぞれの想いを込めて、箱には物が入れられて‥‥今は、思い出を辿るように、ファーランと3人で街を歩いているところだ。
「懐かしいな」
 出逢いの思い出を反芻する。
 リーラはいつも華やかだった。明るくて、可愛らしくて‥‥恋心を抱いたのも、当然だったとすら思える。
「寮とかでお喋りしているうちに女の子としても意識し出して」
 イベントに誘ったり、交流機会を増やして‥‥そのころには、聡いリーラはフォーシャルの気持ちに気付いていたかもしれないけれど。
「それでも愛の日に本格的に告白するまで結構気が気でなかったんだぜ?」
「まったまたー」
 夫としての欲目だろうと笑うリーラ。けれど、フォーシャルは真剣そのものだ。
「‥‥あたしが女神候補だったから、フォーシャルにも迷惑かけたと思うけど」
「そうでもないけどな」
 何だか気恥ずかしくなって、少しだけ話題をずらす。けれどもフォーシャルは、その照れすらも一蹴した。
「リーラへの想いは変わらなかったよ」
 何を秘めていようが、どう特別だろうが。
 フォーシャルにとって、リーラはただ1人のひとだった。
「運命だろうがデュルガー王だろうが、俺たちの未来を拓くためなら乗り越えてやる。そう思ってた」
 つなぐ手に、力を込めて。
「リーラが好きだから」
 ‥‥万感の思いがこみ上げて、リーラもまた、フォーシャルの手を強く握る。
 リーラは強い娘だったといえるだろう。自分の意思を確かに持ち、苦境の中でもそれを忘れず、運命に立ち向かうことができた。
 けれど、その強さは何もないところから生み出されるものではない。
 フォーシャルが支えてくれたから、みんながいたから。
 リーラは、リーラでいられた。
「みんなで手に入れた未来を、今度はあたし達の子孫達が守ってくれたらいいねー」
「そうだな」
 これからはAOSによって、新たな命が育まれる。未来を繋ぐ兆しは見えた。
 未来は、息子のファーランへ――その子どもたちへ受け継がれていく。
「‥‥あ! 見て!」
 ファーランが急に大きな声を上げた。転んでしまうのではないかというほどに、上を向いていて。
 何かと思って見上げればそこには大きな鳥。
「きれいー!」
 翼を広げた白い鳥が、虹を撒いて飛んで行く。
 それはアルストラの錬金品。幸運を運ぶ虹色の風は、ローレックの街を美しく染め上げた。

●幕
 不思議な箱は、気付けばいっぱいになっていた。
 たくさんの物が詰め込まれ、箱は未来へ贈られる。
 希望と夢と、ありったけの感謝とともに――。