◆コラム:家を貸した理由

「アレってどこだい?」
「アレは、ソコだ」
 彼は資料から目を離さず、積まれた羊皮紙の山を指差す。
 乱雑に物が置かれた工房の中、私は足元の物品を壊さないよう、おそるおそる山の元へ移動した。
「よく覚えているね」
「自分で使うものだからな」
「それにしても‥‥」
 私は工房を見渡した。どこも物であふれている。
 この家を任せて本当に大丈夫なのだろうか。信用はしているが、時折不安になる。無意識のうちに深いため息をついていた。
「そうだ。それ」
 唐突に彼が顔を上げ、目で指し示す。そこには錬金の成果物があった。
「使ってみたいって言ってただろ」
 以前話をした記憶はある。わざわざ作ってくれたのか。
「いまは忙しいんだ。もう話しかけないでくれ」
 そう言って彼は再び資料に目を落とす。背中が礼は要らないと言っていた。
 たったこれだけのことだが、私は思う。だから、彼にこの家を貸しているのだ。

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