◆森の館

「ねえねえ、あの森の中の建物に行ってみない?」
 幼馴染の少女が指差した森に、少年は一瞬怪訝そうな顔をした後、すぐに思い出したように頷いた。どうしようもない変人が住んでいるとか、狂人が隔離されているとか、顔に酷い傷跡のある女が寂しく暮らしているとか、いろいろ言われているが一番有名なのは。
「ああ、精霊の館のことか」
「精霊の館? なんだか素敵な名前ね」
「けど、諦めた方がいいぜ」
「どうして?」
「あそこはすぐ近くに見えてるのに何故か皆道に迷うって話だからさ」
 少年はあまり興味がないのかあくび混じりに言った。
 しかし少女のほうは、そんな素っ気無い態度など目に入っていないかのように、ますます興奮気味に声を大きくした。
「でも、この前の満月の夜に私あそこまで行ったのよ?」
「それは運が良かったな。きっと、精霊に招かれたんだろうさ」
 ちょっとだけ目を瞠ったものの、少年はすぐに夢でも見たんだろと言いたげに肩をすくめた。

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